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盆栽に血税5億円! 伝統をめぐって論争勃発

 盆栽は、今や日本が世界に誇る文化でもある。「BONSAI」は国際語として定着し、全世界でファンが増えている。その一方で、盆栽をめぐって、ある論争が繰り広げられている。

 埼玉県さいたま市の旧大宮市内には、その名も盆栽町という地名があり、盆栽専門に生産する業者が軒を並べている。盆栽のメッカとして、海外からも多くの愛好家が訪れている場所だ。伝えられるところでは、関東大震災(1923年)後に、東京の盆栽業者が大挙して、この地に移ってきたのが地名の由来とか。その後、40年に旧大宮市に編入されてから、盆栽町という名に生まれ変わった。現在は、6軒の「盆栽園」がある。

20080229_bonsai2.jpg盆栽町の盆栽園が集まる一帯は「盆栽村」として、
観光名所になっている

 その盆栽町があるさいたま市が、昨年暮れ、鑑定評価が総額20億円という盆栽約100点などを5億円で購入することを決めた。同市文化振興課によると「市の文化振興上、観光資源の充実を図ることに必要なため、購入を決定した」そうだ。

 購入する盆栽は、「MSシュレッダー」で知られる明光商会の創業者、故・高木禮二氏が収集したもので、「高木盆栽美術館」(栃木県下野市)に飾られていた。その高木氏とさいたま市との間で、売買交渉が始まったのが06年だったが、高木氏は昨年5月に逝去。その後、同氏の盆栽を遺産として引き継いだ遺族との交渉がまとまって、さいたま市が購入を決めた。市によると、購入するのは盆栽だけでなく、高木氏が長年にわたって収集した鉢や浮世絵なども含まれているという。

 20億円のものが5億円ならば、かなりお得な買い物に見える。だが、「たかが盆栽、されど盆栽」。5億円もの血税をはたいて盆栽を買うことに、違和感を覚える市民は少なくなかった。「盆栽なんかに、無駄遣いだ」「もっと安く買えないのか」「高木さんの盆栽の中には、そもそも地元にある大宮盆栽組合から買った盆栽もある。市内の民間団体が売った盆栽を税金で買い戻すのは、おかしな話だ」などの意見が噴出してきた。市議会でも反対の声は上がっている。一方で、「盆栽町にふさわしい、いい買い物だ」「5億円は高くない」という賛成派の声もある。

 当のさいたま市はというと、「市民の反応はさまざまですが、市では安く購入したと思っており、町の活性化につながります」と強調。さらに市は、購入した盆栽を展示する施設を盆栽町に建設するという。「完成は09年中を予定しています。名称も建設費も未定です」(さいたま市文化振興課)

 ちなみに高木氏は、1928年生まれの立志伝中の人物で、56年に複写機の現像液の製造販売を無資本で創業、60年1月にMSシュレッダーを発売した。20代の頃の趣味はハーレーダビッドソンで、その後、盆栽収集を始めた。そんな高木氏は社長時代、「私には経営の師匠はいません。盆栽を観て、育てることによって、経営に通じる大切な心を学んだのです。盆栽は、人生そのものです」とまで語っていた。盆栽に大変な愛着を持っていた経営者だったわけだ。

 1年以上の議論を経て、盆栽の購入と施設建設を決めたさいたま市だが、市民の不満はそれだけではなかった。盆栽と施設の維持管理費が毎年約9000万円かかることがわかったのだ。この金額は、同市全域の私道整備助成金の年間予算と同額。市民の間からは「道路整備の陳情を出しても、『お金がない』と門前払いなのに……」との声も出ており、そんな財政事情では盆栽どころの話ではないと言いたくなるのも無理はない。

 一方、高木氏は生前、「(盆栽の価値がわかる)識者がいないのが問題。日本の伝統文化は、国家予算をかけても守るべき」といった旨の持論を力説している。韓国の企業が盆栽コレクションを買いたいと言ってきたときには、「100億円なら売る」と言った高木氏にしてみれば、5億円で売却することは、寄付するに等しいと思っていたようだ。今では草葉の陰で、「維持費くらいは、なんとかしろ」と言っているかもしれない。

 守るべきは、市民生活か? 伝統文化か? 論戦は、まだまだ続きそうだ。
(舘澤貢次)

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最終更新:2008/06/19 23:20
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