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彼らはいったい”誰”の犠牲か?『名ばかり管理職』の実情

『名ばかり管理職』(NHK出版)/
NHK「名ばかり管理職」取材班

 昨年末頃から世間に広まりだし、今年に入るとメディアはこぞってこの問題を取り上げたので、誰もが一度くらいは「名ばかり管理職」という言葉を目や耳にしたことがあると思う。世間では非正規雇用者、いわゆる「ワーキングプア」の労働問題が大きく取りざたされているが、正規雇用社員においても僅かな管理職手当てをもらうだけで、月に100時間以上のサービス残業を強いられている人たちがいるということが知られるようになった。月に100時間の残業というと、月25日働いたとして1日4時間である。

 労働基準法では、従業員の労働時間は基本的に週40時間以内と決められており、それを超過する場合は残業代の支払い義務がある。また、月80時間以上の残業が認められた場合には労災、過労死が認定されることになっているが、実はこれらの条件は「監督もしくは管理の地位にある者」には適応されないことになっているのだ。

 一昔前ならば、管理職と聞くと会社の中枢をなす重鎮たちの姿が安易に頭に思い浮かんだが、本書で取り上げられている「ファミレス」「コンビニ」「ファーストフード」などの店長(当時も含め)たちは、管理職だからという理由で月100時間以上残業を強いられ、文字通り寝る間も惜しんで働いている人たちばかりである。これが今、管理職と呼ばれる人たちの現実のありかたの一つなのだ。

 以下は、旧労働省が昭和63年に行政通達した、管理職の条件をまとめたものであり、管理職の定義は現在もこれを元になされている。

(1)「経営と一体的な立場で、企業の経営方針の決定にかかわる重い権限が与えられている」
(2)「労働時間を管理されず、出勤や退勤の時間を自分で決められる」
(3)「一般社員より報酬が高く、管理職にふさわしい待遇を得ている」
 これが「管理監督者」のいわゆる「3条件」である。「3条件」をはじめて知って、驚いた人もいるだろう。「これだけの条件を満たす管理職が、いったいどれほどいるのか」と。そう、かなり難しいのだ。(本文引用)

 もちろん、本書で取り上げられているファミレスやコンビニの店長たちは、上記の3条件の一つも満たしていないのは言うまでもないが、本書に紹介されている管理職1000人アンケート結果(取材班調べ)では、23.4%が自分は「名ばかり管理職だと思う」と答えており、「やや思う」の33.6%を加えると実に57%の人たちが、自分は名ばかり管理職だと認識しているのだ。

 実はこの3条件を満たしていない「名ばかり管理職」というものは、最近になって生まれたものではないという。ただ、高度経済成長や終身雇用という物語が残っていたバブル崩壊以前の日本では、たとえそのときは「名ばかり」でも、少し頑張れば、その後には明るい未来が待っていた。ある種、「名ばかり管理職」は会社内での出世のための通過儀礼というコンセンサスがあったために、不満が報告されることもなかったのだ。

 しかし、時代が変われば人の思いも変わる。

管理職1000人のアンケートでは、「納得のいく働き方をするために大切だと思うもの」についても聞いた。最も多かった答えは「仕事への正当な評価」で71%。次に多かったのが「仕事のやりがい・達成感」で67%に上った。「自分の働きを正当に評価してほしい。そこにやりがいを見出したい」という切実な思いがうかがえる(本文引用)

 これらの結果からは、彼らの働くことの尊厳を回復したいという強い思いを感じさせる。また、その裏側には働く人を「人材」としてではなく、単なる「労働力」として扱うようになっている企業の姿勢が見え隠れしている。

 ただ、「名ばかり管理職」の過酷な状況を生み出してしまったのは、何も企業だけの責任ではない。「名ばかり管理職」の実情に鈍感だった行政にも問題はあったし、私たち消費者にもその一端があるのではないだろうかと、本書は問いかける。

 一方で消費者としての私たちが、「より安い商品」「より便利な社会」を望んできた側面があることも否めない。それが生活の「豊かさ」だとされてきたが、身近で働く人の犠牲の上に成り立つ社会が「豊か」であるといえるのであろうか。今、環境問題の観点から社会の24時間化を見直せないかという議論が出始めているが、働きすぎの解消を図る意味でも「より安く、より便利」な社会からの転換を真剣に考えるときにきているのではないだろうか。(本文引用)

 「人の幸せ=社会の豊かさ」ではないのは当たり前のことであるが、今も「社会の豊かさ」という大義名分のために、正当な評価もされないまま寝る間を惜しんで働いている人がいる。そう考えると、労働のあり方はもちろん、社会のあり方も見直される時期にきているのだと強く感じさせられる。やはり、人は働くために生きているのではなく、幸せになり、それを守るために働くのだから。
(文/テルイコウスケ)

名ばかり管理職

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最終更新:2008/09/10 21:16
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