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北芝健の「いわんや悪人においてをや」vol.03

無差別殺傷事件はメディアの食品業界タブーが生んだ!?

kitashiba03bunshun.jpg08年、多数発生した無差別殺人の裏に……
(写真:「週刊文春」12月18日)

「犯罪者である彼あるいは彼女にも我々同様に人生があり、そして罪を犯した理由が必ずある。その理由を解明することはまた、被害者のためにもなるのでは?」こんな考えを胸に、犯罪学者で元警視庁刑事・北芝健が、現代日本の犯罪と、それを取り巻く社会の関係を鋭く考察!

 年始一回目の今回は、昨年2008年に起きた犯罪を回顧し、再び同じような事件が起きないようにするために、私たちはどうすればいいのかを少し考えてみたい。昨年も、数多の悲惨な事件が起こったが、特に印象的だったのは、被害者を選ばない無差別の「動機なき」凶悪犯罪が多発したことである。年始早々、戸越銀座(東京都品川区)で1月5日に発生した、5人を切りつけた通り魔事件に始まり、3月には茨城県土浦市で、2人が死亡、7人が重症を負う連続殺傷事件が起きた。そして6月8日には、秋葉原(東京都千代田区)で、死亡者7人、負傷者10人という無差別殺傷事件が起きた。そのほかにも、大阪駅構内での通り魔事件、東京都八王子市での通り魔事件など、枚挙にいとまがないほど、「動機なき無差別殺傷事件」が起きた1年であった。

 何の殺されるいわれもない被害者の側からすれば、事故としか言えないこれらの事件であるが、一部では容疑者たちへの率直な共感を語る人が多かった。秋葉原における事件では、ネット上で加藤智大容疑者(26)に対して「格差社会の英雄」「神」などと賛辞を述べる現象があり、事件は多面的な意味合いを持った。思考と情動の暴発にすぎなかったはずの彼の行動が、瞬く間に現在の日本における負け組の英雄、代弁者として語られたことで、「社会弱者によるテロ」となったのである。また、加藤容疑者や土浦連続殺傷事件の金川容疑者が、あの神戸連続児童殺傷事件の酒鬼薔薇聖斗や、西鉄バスジャック事件の容疑者と同年代であることから、「暴発する世代」論にも発展した。

 このように突然誕生する事件の加害者に共通して言えるのは、「積年の」なのか、「ぼんやりとした」ものなのかの違いはあるとして、社会に対する負の思いがあることである。しかし、程度の差はあれ、社会への不平不満は誰でも持っている。これは当たり前のことだが、負の感情を溜め込んだ人間が犯罪を行うか行わないかは、それが爆発するかしないかで決まる。そしてそれが爆発、暴発するきっかけは、非常に個人的で矮小な、客観的に観ればつまらないものであることも少なくない。

 私は、その暴発のきっかけ、つまり犯行を行うスイッチが入る要因のひとつとして、化学物質による脳への影響があると思っている。一連の通り魔事件の容疑者たちの行動心理は、ドラッグなどの薬物に脳内汚染された人間のものに酷似している。薬物中毒者は「神との会話」「光を見た」など、なんらかの啓示によって突然、沸点を越え暴発する。一方で、一連の事件の加害者たちは薬物中毒者ではないが、現在の日本に化学物質が蔓延していることを考えれば、それが脳内に影響を与えている可能性は高い。このような、化学物質による脳内汚染が原因で犯罪が多発する時代が来ているという説を、アメリカの評論家H・パッカードという人物が述べている。彼は数年前に亡くなられたが、長く日本に滞在していて、日本の環境・化学物質汚染の状況と日本人の危機意識の無さを嘆いていた。

 多動性障害や、いわゆるキレやすい人間を生み出してしまう原因となる可能性がある化学物質への社会的な対応に関して、たしかに日本は遅れている。例えば、イギリスでは、このような化学物質による影響を減らそうと、食品添加物や保存料を含む飲料や食品に対して注意を促し、合成着色料の使用を規制するなど国を挙げて試みている。しかし、日本では口からはもちろん皮膚からも入り込み脳内を汚染するこれらの化学物質被害の可能性について、メディアではあまり扱われていない。特にテレビがこの問題に触れようとしないのは食品業界が大手スポンサーであるからだ。しかし、今後はこれも、ひと頃の中国産不買運動や禁煙キャンペーンのような運動になってしかるべきではないか。

 彼ら犯罪者の行動をただ責めるのは簡単だ。また、社会的モラルの低下や幼少期の教育の問題とすることもできる。これらに加えて、今回取り上げた化学物質汚染などの問題を踏まえ総合的な要因を顧み、現代社会の負の部分がえぐり出された現象として総括するのが正しいモノの捉え方ではないか。つじつまを合わせるだけの議論に終始していても何も始まらない。彼らはなぜ踏みとどまれなかったのか。彼らと同様の思いを抱いている人はたくさんいる。そういった人々が、自身の自意識さえも越えて犯行のスイッチを押してしまうことを防ぐため、なんらかの行動を起こす時期が来ているのではないだろうか。劇的な動機のない犯罪は、残念ながら今年もきっと発生するであろう。そして、それらの事件の巻き添えになる被害者や、悲しい思いをする遺族は、決して他人ではない。それは誰の身にも降りかかる可能性がある危険なのである。
(談・北芝健/構成・テルイコウスケ)

shibakenprf.jpg●きたしば・けん
犯罪学者として教壇に立つ傍ら、「学術社団日本安全保障・危機管理学会」顧問として活動。1990年に得度し、密教僧侶の資格を獲得。資格のある僧侶として、葬式を仕切った経験もある。早稲田大学卒。元警視庁刑事。伝統空手六段。近著に、『続・警察裏物語』(バジリコ)などがある。

続・警察裏物語-27万人の巨大組織、警察のお仕事と素顔の警察官たち

人間だもの、警官だって!

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最終更新:2009/01/16 16:00
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