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北芝健の「いわんや悪人においてをや」vol.04

犯人は学内にいる──中央大教授刺殺事件の実行犯を大胆推理

事件が起こった中大後楽園キャンパス

「犯罪者である彼あるいは彼女にも我々同様に人生があり、そして罪を犯した理由が必ずある。その理由を解明することはまた、被害者のためにもなるのでは?」こんな考えを胸に、犯罪学者で元警視庁刑事・北芝健が、現代日本の犯罪と、それを取り巻く社会の関係を鋭く考察!

 1月14日、中央大学後楽園キャンパス(東京都文京区)において、同大学理工学部の高窪統教授(45)が全身40カ所以上を刺されて死亡しているのが見つかった。発生から1カ月が過ぎた現在も、捜査の進展はなかなか見えてこない本事件だが、被害者は犯人に馬乗りになって刺されていると見られており、その刺傷の中には被害者の身体を貫通するものすらあったという。おそらく、被害者は数回刺された時点で絶命していたであろうが、それでも犯人は刺し続けたということである。現在出ているこのような情報を踏まえて、そこから見えてくる犯人像を考えてみたい。

 まず、被害者の体に残された刺傷から、犯人の精神状態が垣間見える。私はこの事件の現場を見る限り、犯人にいわゆるサイコパス的な傾向を感じる。目的は殺すことにあるのではなく、憎悪の発散。つまり、ほかの多くの殺人事件と異なり、殺すという手段によって目的を達成しているかのようなのだ。であれば、憎悪を抱かれる要因が被害者にはなかったのかを考える必要がある。

 ここで、被害者は30代で教授の地位を手に入れ、父、祖父は同じく中大教授、夫人も明治大学の準教授という学者一族だということがひとつのフックになる。被害者の人格に関しては、報道されている限りでは、恨みを買うような人物ではないといわれているが、この経歴をみるだけで憎悪の念を抱く人間がいてもおかしくはない。また、このようなバックボーンを持つ人物から何かしら批判を受けたとき、たとえそれが些細なものであったとしても、「学者一族だからっていい気になるな」と、反射的に感じてしまう人間心理は往々にして考えられることであろう。これは、この事件を推理する上で非常に大切なポイントの一つである。

 さらに、このような憎しみが生まれる原因を考えるときに、忘れてならないのが現代の時勢である。今の日本は、格差社会がさらに広がり労働者たちの状況は非常に厳しくなっている。と同時に、雇用者側も決して楽ではなく、同様に逆境に置かれているといえる。となれば、労働者側からしてみれば、かつてのように「絶対悪」や、倒すべき「体制」といったものが見つけにくくなっている状況だ。結果、彼らの鬱屈した感情が、組織ではなく、特定の個人への嫉妬や恨みといった形に変貌し向けられることもおおいにあるだろう。

 そうなると、容疑者は大学関係者の中にいる可能性が高くなってくる。被害者と犯人には交流があったであろうし、何より現場である校舎に潜入・逃走し、いまだ有力な目撃証言すら上がってこないことは、犯人が校舎の構造及び人が出入りする時間などを事前に把握している、大学の内情に詳しい人物だという可能性を示唆している。大学関係者、つまり理事会や教授会、同僚、事務員、大学院生、外部からの研究員、それから学生。犯罪学的な考えではこの中に犯人がいなくてはおかしいと推断する。

 犯行状況をみると、犯人は刺すという単純な行為を黙々と行っている。40カ所も刺せば、動脈を貫き血が吹き出す場合もあるし、筋肉が収縮して刃物が抜けなくなる場合もある。それにひるむことなく刺し続けるということは、ほとんど没頭していたといっていいだろう。そして、当然ながらこれらの行為を行うには、精神力のほかに体力も必要である。このことから、犯人は男である可能性が高いといえる。また、同様の理由で、高齢者である可能性は極めて低くなる。では、学生はどうだろうか。学生の場合、理工学部の学生では体育会系でもない限り、犯行を行うだけの体力や気力画ある者は確率的に少なく思える。また、そこでしぼられた犯行可能な学生の中に、被害者を殺したいほど憎んだ人間がいるかといえば、非常に可能性は低い。このような条件をクリアし、犯行を行ったのは30~40歳くらいの男ではないだろうか。つまり、事務員や大学院生、卒業生、それから同僚先後輩の中に犯人はいるのでは、と考えられるのだ。

 さらに絞っていくと、教授会や同僚、先輩後輩は社会的立場及び、知的水準からして、あれほど執拗に刺すことが目的になるほどの、すさまじい憎悪を抱くことは考えにくい。特殊な情緒傾向がある人間ならば別だが、たとえ逮捕されて死刑になっても、すべてを捨ててでも刺し続けたいという思いを抱けるほど、大学教員の社会的立場というものは軽いものではないからだ。

 そろそろ、結論を言おう。一番疑われるのは被害者が関与した形で、過去に留年あるいは修士、博士号を取れなかった人物。また、博士号等の学位を持ちながら講師の職に就けなかったような人物であると推断する。博士号を持った人間がブルーテントで寝泊りしていると言われる時代、講師職というのは非常に狭き門になっている。現代の社会状況はしっかりとこの事件にも反映されているはずである。

 以上が私の本事件の推理であるが、もちろん推測の域を出ない。また、このような推理は当然のごとく捜査本部でも行われ、容疑者の絞込みをかけているはずである。すでに限りなく黒に近い人物を特定するまでにいたっており、あとは決定的な証拠を待つばかりかもしれない。いずれにしろ、平穏な大学生活のためにも、一刻も早い犯人の逮捕が望まれる。
(談・北芝健/構成・テルイコウスケ)

shibakenprf.jpg●きたしば・けん
犯罪学者として教壇に立つ傍ら、「学術社団日本安全保障・危機管理学会」顧問として活動。1990年に得度し、密教僧侶の資格を獲得。資格のある僧侶として、葬式を仕切った経験もある。早稲田大学卒。元警視庁刑事。伝統空手六段。近著に、『続・警察裏物語』(バジリコ)などがある。

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人間だもの、警官だって!

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最終更新:2009/02/24 15:00
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