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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第33回

ロンブー淳の「不気味なる奔放」テレビ朝日『ロンドンハーツ』が嫌われる理由

rondonhearts.jpg『ロンドンハーツ』テレビ朝日

 5月13日、社団法人・日本PTA全国協議会は「子どもに見せたくないテレビ番組」のアンケート調査で、テレビ朝日の『ロンドンハーツ』が6年連続で首位になったと発表した。ロンドンブーツ1号2号が司会を務める『ロンドンハーツ』は、今ではすっかり「日本一の有害番組」の地位を確立した感がある。

 それにしても、この番組のどこがそんなに問題視されているのだろうか。アンケート調査では、その理由として「内容がばかばかしい」「言葉が乱暴である」「常識やモラルを極端に逸脱している」といったことが挙げられていた。だが、それらの条件に当てはまるバラエティ番組ならほかにもあるし、この番組だけが突出して下品だったり暴力的だったりするわけでもない。

 恐らく、『ロンドンハーツ』がPTAに嫌われている最大の理由は、この番組が芸人・田村淳の本性が最も露骨に出ている番組だという点にある。いわば彼らは、田村淳というつかみどころのない新世代芸人の存在そのものを恐れているのである。

 田村淳は、デビュー当初から明らかに異彩を放っていた。ロンブーを初めてテレビで見たときの衝撃は今でも忘れられない。彼らは、「芸人とはこうあるべきだ」といった不文律に一切縛られていないという点で、明らかに他の若手芸人とは一線を画していた。素人女性の浮気調査をする「ガサ入れ」という企画では、ごく普通のモテる男のような態度で若い女性と接していた。芸人がそうやって肩の力を抜いて「普通」にふるまっているということが、何よりも驚きだったのである。

 お笑い芸人は、「豪快で無神経」か、「内気で繊細」か、いずれかのタイプに分けられるというのがそれまでの一般的なイメージだった。だが、淳はそのどちらにも当てはまらなかった。彼は、人の心を土足で踏みにじる大胆さを持ちながらも、相手を本気で不愉快にさせない絶妙のバランス感覚も備えていた。いわば、「無神経」と「繊細」のおいしいところ取りで、従来の芸人にはなかった新しいキャラクターを打ち出して、異例のスピード出世を果たしたのである。

 一言で言えば、淳は身も蓋もない男である。お笑い芸人という特殊な仕事にありながら、彼には屈折したところが一切なく、持ち前の勘の良さだけでやりたいことを淡々とやっている。嫉妬心や劣等感といった負の感情を原動力とせずに、ただ純粋に「売れたい」「モテたい」「面白いことをしたい」という気持ちだけで動いている。自分を必要以上に良く見せようとはしないし、変に自意識過剰になって卑屈な態度を取ることもない。彼はただ思うがままに意地悪なドッキリ企画を手がけ、数々の女性タレントと浮き名を流してきた。

 恐らく、その点こそが、PTAのような「マジメな大人たち」が淳を恐れる最大の理由だ。身も蓋もない人間は、本人としてはただ気の向くままに行動しているだけだと思っている。だが、そんな彼の姿は、善良な一般人から見ると不気味で仕方がない。

 普通の人間は、世の中で生きているうちに、遠慮したり妥協したり挫折したりといった経験を経て、最低限の社会性を身につけていき、それを無意識のうちに他人にも期待するようになる。彼らは、本音をさらけ出してのびのびと楽しそうに生きている人間を見ると、理解不能なものを見せつけられた感じがして、底知れぬ不安を覚えるのだ。

 淳のこういった身も蓋もなさは、ある意味では、元・ライブドア社長の堀江貴文、元・2ちゃんねる管理人のひろゆき(西村博之)といった人々にも共通するものだ。堀江は秩序を乱す反乱者として容赦ない社会的制裁を受けたし、法律を無視して「賠償金は払わない」と公言しているひろゆきを危険分子として目の敵にしている人も多いだろう。

 ロンブーが圧倒的に売れた理由は、淳が徹底して身も蓋もない新しいタイプの芸人だったからだ。『ロンドンハーツ』の「見せたくない番組」6年連続ナンバーワンという調査結果は、田村淳の常人離れした得体の知れなさを示す勲章のようなものである。
(お笑い評論家/ラリー遠田)

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最終更新:2013/02/06 12:22
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