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ドキュメンタリー監督・松江哲明の「こんなマンガで徹夜したい!」vol.04

AV女優さんが読んで感じてほしいセクシー漫画『ユビキタス大和』

yubikitasuyamato.jpg『ユビキタス大和』(講談社/580円)。
最新刊第2巻が6月5日に発売されたば
かり。IQゼロ、日本一のセクシーダンス
ガイを目指しそば屋で働く18歳が主人公。

童貞の絶望と希望を描いた傑作ドキュメンタリー『童貞。をプロデュース』の監督・松江哲明。ディープなマンガ読みとしても知られる彼が、愛してやまないマンガたちを大いに語る──。

 親愛なるAV女優さんへ。

 僕はAVという仕事に偏見を持たない元中学生の男子です。AV女優さんは僕らのために裸になって学校では教えてもらえない性の不思議を教えてくれます。エッチなことをして男性たちの股間を刺激したりもしますが、僕はAVも立派な仕事だと思ってますし、真面目に正座をしながらDVDを見ているので、やらしいことはしていません。することもありますが、ホントたまにです。


 最近、AV女優さんはブログを更新されたりして、そこでよくマンガ好きをアピールされることが多いですが、そういう日記を読むと僕は「こっち側にも理解あるんだ!」と嬉しくなります。『稲中』って本当に面白いですよね。いつかオシャレな喫茶店でお話しませんか? 失礼、話が脱線してしまいましたね。今日はAV女優さんに僕らの仲間を紹介したいと思います。ルノアール兄弟さんという漫画家です。彼らは『獣国志』『ルノアール兄弟の愛した大童貞』(ともに講談社)といった「童貞」をテーマにした作品を発表しました。それらの作品で描かれた童貞エピソードの数々は素晴らしかったです。トキの繁殖を抗議する童貞と動物たち、中学生にもかかわらず18歳になるまでAVコーナーで座禅をする男子、間違って送られたラブレターを女子に返す際、苦し紛れに「一生シコり続ける」と誓うエピソード、どれも元童貞であるピュアな僕らは涙を流さずにはいられません。もちろん描かれる物語はフィクションです。けど性に対する欲求は、男子ならば絶対に経験したがあるであろう、切実さが込められているのです。きっとルノアール兄弟さんは、ほかの男子たちがナンパやデートやセックスで大忙しの時に、一生懸命エロ本を探し歩いて、そういった気持ちを忘れずにマンガを描いていたんだと思います。つまりは僕らの仲間ってことです。AV女優さんにも学生時代はおとなしめ、けど大人になってからはエッチになった、という方が多いと僕らの調査(エロ本のインタビュー)で明らかになっています。だからきっとルノアール兄弟さんの童貞マンガはAV女優さんにも共感してもらえるはずです。

 しかし彼らの新作『ユビキタス大和』(講談社/「ヤングマンガジン」で連載中)はこれまでの童貞路線ではなく、セクシー路線を描いています。そば屋で働く大和は客の注文も満足に取れないセクシーガイですが、その時に繰り出されるダンスの数々は全ての登場人物たちを魅了……ではなくツッコミをさせます。そして、その量がハンパないのです。一話は10ページ前後と短いのですが、コマの半分がほぼ「(股間からおしぼりを出されて)話聞いてないだろ!」「(そばを作らずセクシーダンスを踊る大和に)料理を作ってください!」「(父親が半裸のセクシーコップに変身して)キャーッ!」という雄叫びの連続です。ギャグマンガのお約束として「異常なキャラに常識ある人物がツッコミを入れて笑わせる」というものがありますが、『大和』が凄いのはそれが数コマ毎にあるのです。だから読んでいる僕らも何がおかしいんだかわからなくなってきて、麻痺させられ、トンでもない着地なのに、なぜか納得させてしまうという力技でオチがつけられます。まるで最後のコマに「おしまい!」と描いてしまえばオッケー、と決まっているかのように。そうしてまた次号の「ヤンマガ」では当然のように『大和』はしらっとふりだしに戻るのです。

 いつまでもうじうじと悩み続ける童貞と違って、「さぁ、つぎ!」と向かうのがセクシーということでしょうか。

 その辺りの解釈、ぜひAV女優さんのご意見を聞かせて欲しいです。ところで僕の勝手な意見かもしれませんが、AV女優さんが推されるマンガは映画やドラマになっているもの、もしくはなりそうなものばかりなので、ぜひ絶対に映像化が出来ないルノアール兄弟さんの作品も読まれるといいと思います。大変なAV撮影というお仕事の後にいっぱい笑って、トランス状態になれることは確実ですから。きっと鷹さんのエッチにも負けない程の快感があると思います。男の僕にはわかりませんが。ではまた。
(文=松江哲明)

ユビキタス大和 2

待望の第2巻。

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●松江哲明(まつえ・てつあき)
1977年、東京都立川市出身。99年、在日コリアンである自身の家族の肖像を綴ったドキュメンタリー『あんにょんキムチ』を発表。同作は国内外の映画祭に参加し、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波特別賞、平成12年度文化庁優秀映画賞などを受賞。また、07年に公開した『童貞。をプロデュース』が大きな話題を呼ぶ。新作『あんにょん由美香』が7月上旬よりポレポレ東中野でレイトショー。『ライブテープ』が近日公開予定。ブログhttp://d.hatena.ne.jp/matsue/

●連載ドキュメンタリー監督・松江哲明の「こんなマンガで徹夜したい!」
【Vol.03】山本直樹が描く、セックスの「気持ち良さ」と「淋しさ」
【Vol.02】覚えてますか? 教室の隅で漫画を描いていた「大橋裕之くん」のことを
【Vol.01】この世でもっとも”熱い”マンガ、『宮本から君へ』を君は読んだか?

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最終更新:2009/06/09 18:00
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