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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第34回

FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」

fujiwaranoarigataito.jpg『FUJIWARAのありがたいと思えッ!』テレビ東京

 FUJIWARAの藤本敏史が、6月7日放送の『マルコポロリ!』(関西テレビ)にて、かねてから噂されていた木下優樹菜との交際を初めて事実上認めた。島田紳助率いるヘキサゴンファミリーから、今が旬のタレント同士のビッグカップルが誕生する形になった。

 FUJIWARAは、芸歴20年を誇るベテラン芸人だが、全国区で彼らの名前が知られるようになったのはごく最近のことだ。彼らはなぜ、こんなに長い潜伏期間を経ることになったのだろうか。そして、今になってようやくブレイクの兆しを見せているのはなぜなのだろうか。その点について考えてみたい。

 お笑い芸人には、それぞれ得意分野と苦手分野がある。テレビや舞台で彼らに求められるものは、状況によって大きく変わる。司会進行のうまさ、ネタの面白さ、リアクション芸の爆発力、一発ギャグのセンスなど、各ジャンルごとに芸人によって得手不得手があり、それが各人の強みや弱みになる。

 その点、FUJIWARAが他の芸人と一線を画していたのは、2人が2人とも何でもこなせるタイプの器用な芸人だった、ということだ。全般的に能力の高い芸人同士がコンビを組むというパターンは割と珍しい。ネタの中では一応、原西がボケ役、藤本がツッコミ役を担当しているが、トーク番組などでは原西がツッコミに回ることもあるし、藤本が積極的に笑いを取りに行くこともある。彼らの場合、ボケ・ツッコミの役割分担すらあまり固定されていない。両者共に器用だからこそ、そういうことが可能なのだ。

 だが、彼らは長い間、その高い能力を全国ネットのテレビ番組では生かすことができていなかった。昨今のバラエティ番組では、わかりやすいキャラを打ち出していくことが求められる。彼らの全方位対応型の器用なキャラは、多くのテレビ制作者や司会者にとっては扱いに困るようなところがあったのだ。

 だが、ここで終わらなかったのが彼らのしぶといところだ。FUJIWARAの2人が新たに考え出したのは、個々人のキャラを順番に認知させていくという方法だった。

 まず第一段階として、原西が「ノンストップギャグマシーン」としてのキャラを明確に打ち出すことにした。原西は、「ギャグをやります」と真正面から宣言して一発ギャグを披露していった。これは芸人としては見る側のハードルが高くなるハイリスクなやり方なのだが、だからこそ差別化ができて目立てるという利点もあった。原西の迷いなく全力で繰り出される上質なギャグの数々は、確実に大きな笑いを獲得していった。

 そして現在は、藤本が前に出て行くという第二段階に入っている。ひな壇の片隅から司会者にしつこく絡んでいく藤本は「ガヤ芸人」とも称されている。彼のガヤ芸は、一見大ざっぱに見えるが実はかなり精密だ。紳助、さんまといった一流の司会者芸人は、そんな彼の能力を高く評価している。ひな壇形式のトークバラエティ番組を回していくにあたっては、彼のようなにぎやかしに徹する芸人は貴重な存在だからだ。

 まずはわかりやすい原西のギャグを浸透させて、次に藤本の少しわかりづらいキャラの魅力を打ち出していく。ギャグマシーンが土地を切り開き、ガヤ芸人がそこに家を建てる。FUJIWARAのこの二段構えの戦略は、苦節20年を経て今ようやく実を結ぼうとしている。この4月には念願の冠番組も獲得した。彼らは器用貧乏の殻を破り、虎視眈々と次のステージへと向かっている。
(お笑い評論家/ラリー遠田)

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日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

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最終更新:2013/02/07 12:56
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