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タブー破りのドキュメンタリーDVD

政府、企業、メディア……体制の裏側を暴く社会派作品

peter.jpgピーター・バラカン(キャスター)
1951年ロンドン生まれ。現在フリーの
ブロードキャスターとして活動し、
『CBSドキュメント』(TBS)、
『ウィークエンド・サンシャイン』
(NHK-FM)などを担当。著書に
『魂(ソウル)のゆくえ』
(アルテスパブリッシング)など。

 一般的には記録映像、記録作品とも呼ばれるドキュメンタリー。演出を加えないことが前提であるため、放送コードや倫理規制をも凌駕する多くの名作が生まれた。CBSドキュメントの「ピーター・バラカン」、報道カメラマンの「不肖・宮嶋」ら、ドキュメンタリーに一家言を持つ賢人が、そんなタブー破りのDVDを選出する。

 僕は長年『CBSドキュメント』の司会を担当し、アメリカのテレビドキュメンタリー番組『60 Minutes』の映像素材を毎週観ているので、自分のドキュメンタリー観はその番組の影響を受けています。そのためか、視聴者の感情を操作する音楽を使用したり編集をしたりしない、淡々とした映像に説得力を感じます。今回紹介する3本は、”体制”にとって都合の悪い真実に肉迫した作品です。

 まず『暗殺・リトビネンコ事件』は、ロシアという国家の恐ろしさがわかる作品です。ここで登場するリトビネンコという人物は、もともとロシア連邦保安庁(FSB)で働いていましたが、上司たちの不正に嫌気が差してジャーナリストに転身し、「プーチン政権はチェチェン関係のテロを工作した」と指摘するなど、体制の裏側を暴露し始めたのです。それで身の危険を感じイギリスに亡命したのですが、何者かにポロニウムという猛毒を盛られて暗殺されてしまう。そのときの彼の行動を考えるとロシア政府関係者以外の仕業とは思えないのですが、この映画の面白さは、リトビネンコ自身が命の危険に晒されているのを承知でカメラの前でロシア政府を告発している点です。その彼が実際に殺されたのですから、告発には説得力がある。本当によくこんな映画を撮れたと思いますが、今後の監督の安否が気がかりです。

 そして政府に匹敵する、もしくはそれ以上の力を持つのが大企業です。昨年、アメリカの大企業がヘマをして、世界の経済システムが崩壊しかねない事態に陥りましたからね。そこで、企業の力を冷静に見つめた『ザ・コーポレーション』は誰もが観てほしい。ナチスと深い関係にあったコカ・コーラ社が戦時中にドイツのためだけに「ファンタ オレンジ」を開発したとか、IBM社が高度な整理技術を要するホロコーストのために最新技術のパンチカードをナチスにリースしたとか、その内容は目を見張るものがあります。しかし、多くの大企業CEOが登場し企業論理を述べていますから、決して一方的に批判するだけの作品ではありません。ただ、企業を人間に例えてカウンセリングしている作品ですが、その行為はサイコパスにしかならないことを実証しています。

 また、影響力が大きいといえばメディアもそうですよね。『チョムスキーとメディア』はインターネット登場以前の作品なので改訂版を作る必要がありますが、メディア論としてとても優れています。言語学者のチョムスキーはベトナム戦争時に活動家の道を選び、青臭い理想主義者と揶揄されることもありましたが、博識でその発言が非常にわかりやすい人物。この映画はそんな彼が登場したさまざまな媒体からの素材をうまく編集し、当時のメディアの実態を明らかにします。日々取り上げられるニュースは世界で起きていることの氷山の一角にすぎず、各媒体の都合でニュースは取捨されているのであり、テレビやラジオ、新聞、雑誌といったメディアに我々がいかに洗脳されているかがわかりますよ。それは、僕も含めてなかなか自覚できないことなのです。

 我々が当たり前と信じていることの中にはデタラメがたくさんあります。それがまかり通るのは、僕らを洗脳し信じ込ませることで利益を得る人たち、例えば政府や企業、メディアが存在するからなのです。騙されてきた過去を知り、もうこれ以上騙されずに生活したいと思うのなら、体制の実態を暴くこれらの作品から勉強しましょう。
(構成=前田毅、砂波針人/「サイゾー」10月号より)

暗殺・リトビネンコ事件
2007年製作/監督:アンドレイ・ネクラーソフ/3990円/アップリンク/10月9日発売

ロシアからイギリスへ亡命した、元ロシア連邦保安庁中佐リトビネンコを追った政治ドキュメンタリー。そのフィルムの中で彼は誰かに毒を盛られ、暗殺された。
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ザ・コーポレーション
2004年製作/監督:マーク・アクバー、ジェニファー・アボット/3990円/アップリンク(カナダ)

政治システムを超えてグローバル化する企業を人格として精神分析し、その正体を暴こうとする意欲作。マイケル・ムーアやノーム・チョムスキーも登場。
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チョムスキーとメディア
1992年製作/監督:ピーター・ウィントニック、マーク・アクバー/5040円/トランスビュー(カナダ)

思想家でもある”アメリカの良心”ことノーム・チョムスキーが、マスメディアというシステムをシニカルかつ緻密に分析することで問題を洗い出すさまが映し出される。
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最終更新:2009/09/30 21:00
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