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アニメ監督・中村健治インタビュー

絶賛と拒否反応が渦巻くハイブリッドアニメ『空中ブランコ』の果てなき挑戦(後編)

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前編はこちらから

──本作の特徴である、実写映像を取り入れたハイブリッドアニメなんですが、これはどういうところから生まれたアイデアなんでしょうか。

中村 順を追ってお話すると、最初に小説を読んで自分的にいろいろと解決しないといけない要素があって、その中の一つにマユミちゃんっていうナースの存在がありました。セクシーさというか、太ももや胸の谷間が見えた時の、何か自分の中で起こる化学反応みたいなものを表現したいと思ったんですよ。

──異物感を出したかった。

中村 そうですね。普通にチャンネルを変えてる時に、ぱっとアップで胸元が映ると、視聴者がハッとするかなって(笑)。そういう地に足のついた人間の、スケベな思いに対して何かしら訴えかけたいと思ったんですよ。僕はいつも、相手の脳に向けてフィルムを作ってるという感覚があるんです。

──本能に訴える。

中村 ええ、無意識の部分の感じ方がすごく気になるんですよ。だからまず、ごくごく平均的な男子に訴えかけたいと思ったんです。ただ、そこだけ実写だと映像的にバランスが悪いと思ったんですよ。そこで、今回ゲストの方をすごく重視したいなとも思っていたので、その人たちにも出てもらおうかなと思ったんです。

──ゲストの声優陣ですね。実写でゲスト声優が顔出しするに至った、具体的な理由というのは何なのでしょう。

中村 表情が欲しいと思ったんです。役者さんにも顔出ししてもらって、台詞にならない、作画で出せないものを、アニメの中に出てくる実写の芝居で表現できないか。それによって、新しい刺激が視聴者の脳に与えられるんじゃないかと思ったのと、そういう自分の表情に対して、声優さんがどういう芝居を乗せるんだろう。そこに記号化されたものではなく、本当は役者さんのポテンシャルとして持っているんだけど、今までのアニメでは引き出せなかった芝居というものを、ひょっとしたらお茶の間に届けられるんじゃないだろうかと思ったんです。

kuchu001.jpg(C)空中ブランコ製作委員会

──実際、作中でそういうシーンが出るときは、キャラクターが何とも言えない表情をするんですよね。

中村 そうですね。役者さんたちもかなり頑張ってくれて、スタッフと一緒にワイワイやりながら撮っていますね。

──「テレビアニメ」としては、実験的な表現が多くみられる本作ですが、その点について、ネット上ではいわゆる濃いアニメファンの人たちが特に強い拒否反応を示しています。先ほど嫌な人は嫌だろうとおっしゃいましたが、そういう声は現場に届くものなのですか?

中村 実はあまり届いてないです(笑)。ただ、そういう風になるだろうなっていうのは最初からある程度想定していました。また、今回の『空中ブランコ』は、好きな人にはすごく好きって言われることを重視して、100%誰からも愛されようとは思っていません。50%くらい好かれればいいかなって。そうでもしないと、一歩を踏み出す時にブレーキがかかってしまって、大量の作品の中に埋没してしまうんじゃないかなという思いがあります。アニメーション作りって、農業みたいなところがあって、ちゃんと種まきをしないといけないと考えているんです。今すごく世の中全体が尻すぼみ感があって、大きい成功をみんな夢見てるんだけど、現実的にはまあまあな行動を取ることが多い気がします。そういう状況だからこそ、逆に今誰がいるか分からない所にボールを投げようかな、みたいなところがあります。

──確かに毎年、大量にテレビアニメが作られる中、かなりの作品が空気化してしまいます。特に最近は景気が悪いというのもあって、そこそこのヒットを狙う作品が多い中で、こういう冒険をしたというのは意味があると思います。

中村 僕がしたっていうよりも、このノイタミナのチームがすごいなと思いますね。たぶん、僕とは違う人がこのポジションに来て、また突飛なことをやるって言っても割と通る気がするんですが、そういう場がアニメ業界にはもうあまりないんですよ。さっき僕はアニメは農業みたいと言いましたが、産業ってみんなそうだと思うんです。一瞬で種まきが終わって、一瞬で収穫できるのが理想なんですが、最初から刈りにだけ行っているような作品も多くあります。ただ、自分はあまりそうしたくないなと思っています。そこに執着すると、何も発展しないし結局縮小していくしかない。

──現在、テンプレート化されたアニメが氾濫している中で、挑戦的な作品を作っている監督としては、今の状況をどう思っているのでしょうか。

中村 あまり意識してない、というよりは実は、これはこれでいいんじゃないかなって思っています。例えば、美少女がたくさん出てくるようなアニメっていうのは、確実にそういうのが好きな人がいて、その人たちが楽しめているので、いいと思う。ただそこにプラスアルファして、アニメーションの枠を広げていくような、そういう意識の人たちが少ないとは思いますね。業界内にいると、すごくコアなアニメファンの人に向けて、すごく高い精度でヒットするものを作る才能がある人って実際にいて、それは素直に「すげえなあー」と思うんですよ。それに、自分もいつかそういう作品にかかわるかもしれませんし。ただ、自分がチャレンジさせてもらえるうちは。地図なき航海をしていくつもりではいます。そしてふと後ろを振り返った時に、多少でも地図ができてて、もっとこうすればいいのにって言ってくれる人がいてくれたら、それはそれでいいのかなと思ったりしますね。
(取材・文=有田シュン)

『空中ブランコ』
30分×全11話
毎週木曜24:45~
フジテレビ”ノイタミナ”ほかにて放送中!
<http://www.kuchu-buranko.com/>

空中ブランコ 初回限定生産版 第1巻

2010年1月27日発売予定

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最終更新:2009/12/07 21:16
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