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芸能

お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第66回


松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道



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写真=田中まこと

 1992年から98年まで、過激なロケ企画の数々で一時代を築いた伝説のバラエティー番組『進め!電波少年』(日本テレビ系)が、3月12日よりCS放送の「日テレプラス」にて毎週放送されることになった。松村邦洋と松本明子がアポなしで無謀な挑戦をする企画や、社会現象にもなった猿岩石のユーラシア大陸横断ヒッチハイクなどが続々とオンエアされる予定。一世を風靡した伝説の番組を改めて振り返りたい人には必見のプログラムとなっている。

 松村邦洋といえば、ビートたけしや掛布雅之など、鋭い観察眼を生かした精密な物真似で知られるお笑いタレントである。高田文夫の笑い声を真似た「バウバウ」という一発ギャグも有名だ。そんな彼の出世作となったのは、やはり『進め!電波少年』ということになるだろう。この番組がヒットしたことで、松村は芸人としての生き方の方向性を決定づけられたのだ。

 『進め!電波少年』という番組の企画内容は、前期と後期で大きく変わっている。番組開始当初は、MCを務める松村邦洋と松本明子が、アポなしで数々の過激で無謀な試みを実現させようと必死になるという企画が中心だった。猿岩石のヒッチハイクが注目され、無名芸人のチャレンジ企画がメインになるのは番組後期のことである。

 この番組のアポなし企画が人気を呼んだのは、企画を作る上で発想の転換を図ったことにあった。すなわち、企画自体が成立するかどうか、実現できるかできないかを含めて、それを成し遂げようと奮闘する一部始終を番組で見せてしまう演出手法こそが、非常に画期的だったのである。松村邦洋と松本明子は当時、あまり仕事もなくスケジュールは常にガラ空きだった。だからこそ、いつでも迅速にロケに出ることができた。そのフットワークの軽さも成功の要因だった。

 松村は、「渋谷のチーマーを更生させたい」という企画では、夜の渋谷センター街でチーマーの群れにビクビクしながら近づき、説教をしようとするが、一切話を聞いてもらえず、数人に囲まれて殴る蹴るの暴行を受けたあげく、危うく連れ去られそうになってしまう。香港のアクション俳優であるユン・ピョウが本当に強いかどうかを検証するという企画では、ユンを待ち伏せして襲いかかるも、ボディーガードに返り討ちに遭ってボコボコにされる。それ以外にも、池袋で出張ホスト詐欺師に拉致されて脅迫を受けたり、砂漠で遭難して死にかけたり、この番組で松村は何度も生死の境をさまよっているのだ。

 だが、そんな松村の姿は、笑えないほど悲惨ではなく、どこか愛らしいところがあった。小太りの体と弱気な態度で必死に任務を遂行しようとする彼の姿は、妙にチャーミングで憎めないものがある。だからこそ、それがギリギリのところで笑いにつながっていたのだ。

 「芸人は、笑われるのではなく、笑わせる存在でなければいけない」ということが、まことしやかに言われることがある。だが、この番組における松村は明らかに、「笑われる」ことに関して超人的な才能を発揮していた。常にオドオドしていて弱気で、ハプニングに巻き込まれてはボロボロの姿をさらけ出してみせる彼は、『電波少年』という枠でこそ、光り輝く資質を持っていたのだ。

 松村は、いじられキャラである一方、物真似の名手でもある。特に、ビートたけしの物真似に関しては、真似される本人も認めるほどの出来映えだ。彼は、野球、歴史、お笑い、テレビなどに関しては抜群の知識量を誇っている。それが下地になっているので、物真似にも独特の緻密さが感じられるのだ。

 いじられるのも物真似も、ある意味で自分の人格を捨てて任務を遂行するという点では共通するものがある。松村は、与えられた仕事に誠実に向き合い、一心不乱に自分の芸を磨くことで、内気な性格を武器にして成功への道を切り開くことができた。彼は、自分を消す芸でその才能を開花させた、愛すべき「へりくだり芸」のスペシャリストである。
(文=ラリー遠田)


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●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が書籍化されました。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オードリー、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる"お笑い愛"で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算や「M-1グランプリ」の進化を徹底分析など、盛りだくさんの内容です。手元に置いておくだけで、お笑いを見るのがもっと楽しくなる。そして、お笑い芸人を通して現代が見えてくる。そんな新時代の"お笑い批評"をお楽しみください。
ラリー遠田×担当編集S「お笑いを楽しむための"ツールとしての批評"でありたい」

朋友日記〈part1〉アフリカ・風雲の志編


こんな人たちもいました。


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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」
【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」
【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」
【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」
【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する
【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは?
【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由
【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」
【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」
【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」
【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」
【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」
【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」
【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」
【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由
【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」
【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」
【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化
【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」
【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」
【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける
【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感
【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる
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2010.02.20 土  



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