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2010国際ウエルディングショーレポート

『とろ鉄』『なっちゃん』 鉄工所マンガBIG2が語る奥深き溶接の世界

yousetsu.jpg左から産報出版の馬場信氏、たなかじゅん氏、野村宗弘氏。

 世界三大国際溶接展示会のひとつと言われる国際ウエルディングショー。今年の「2010国際ウエルディングショー」は4月21日から24日まで、東京ビッグサイトにて開催された。

 はたして溶接の展示会にどれほどの人が訪れるのかと思いきや、モーターショーやゲームショウに勝るとも劣らぬ大盛況! 最先端の産業用ロボットがグイーーーンと動き回るその様は、サイバーパンク映画の未来都市が湾岸に出現したかのよう。商談がほとんどとはいえ、溢れる熱気は驚かされるほどのものだった。


 かような光景が繰り広げられた東2・3ホール中央に鎮座していたのは、マンガ『とろける鉄工所』(野村宗弘・著/講談社・刊)と『ナッちゃん』(たなかじゅん・著/集英社・刊)のブース。

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 かつては鉄工・溶接というと「ガテン」「3K」のイメージが強かったが、近頃では『アメトーーク』(テレビ朝日系)の「町工場芸人」などエンタメ系コンテンツでも注目を集めるようになり、以前よりも親しみのある業界になってきている。

 『とろ鉄』『ナッちゃん』は、そんなアツい鉄工所ムーブメントの中核で、さらに溶接の人気を押し上げている一大要因。『ナッちゃん』は鉄工所で使う機械の構造に着目したものづくりマンガとして定評があるし、後発の『とろ鉄』は鉄工所の日常を笑いに昇華させてファンを増やしている。国際ウエルディングショーに両手を挙げて歓迎されるのも当然の事態なのだ。

 そんな鉄工所系マンガBIG2の作者おふたりがショー3日目の23日、産報出版の馬場信氏を司会進行役に迎え、対談を行った。産報出版は国際ウエルディングショーを主催している、溶接業界の雄とも言うべき出版社。鉄工所で働いた経験を持つ野村氏も産報出版のテキストで溶接を学んだというから、馬場氏は司会としてはまさに適任。実に落ち着いた物腰でたなか氏と野村氏から言葉を引き出していく。

■『とろ鉄』は溶接の応援歌

 鉄工所でもあまりなじみのない旋盤より、分かりやすい溶接を前面に押し出した『とろ鉄』には、もちろん3K的なキツさを描いた部分もある。そこを「溶接を応援してくれているのか、溶接工になったら大変だぞと言っているのか、不安になったんですが、ずっと読んでいくとやはり溶接の応援歌みたいな気がしてきて、大変ありがたい」と馬場氏が感想を述べると、野村氏はこう答える。

「たとえば、ボクシングマンガで(登場人物のボクサーが)目を傷めるシーンが描かれていたとしても、ボクシングをやりたい人はケガを負ってもボクシングを楽しむのだ、と描くのが、ボクシングマンガの面白いところだと思います。溶接も正直、まったくしんどくないわけじゃないです。それでもおもしろき、どうしたらええ、というのが『とろ鉄』です」

 最新4巻にもなると溶接に対する扱いが優しくなってきたと馬場氏が言うと、それはある業界筋からお叱りを受け、考え直した点があるからでもあると、野村氏は答えた。

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 作者よりも知識や経験に自信を持つ製造業の人々が『とろ鉄』を読むと、ひとこと言いたくなるのだろう。この点はたなか氏も同じ意見だった。

「作家としては怖いんですよね。プロの人が読んでいるからドキドキする。そういう人たちに会って話すときに、大丈夫かな、みたいな。(『ナッちゃん』連載の)初期には、よくツッコまれました。また、各鉄工所でやり方が違うわけなんですよ。各々ご自身のやり方が正しいと主張されるので、それは違う、と言われることもしばしばです」

 たなか氏の実家は1階が工場。昔はアーク溶接ばかりで鉄臭かったという。これを受けて司会の馬場氏が、ウエルディングショーも10年前は実演していて臭かったが、いまはほとんどヒューム(※溶接ヒューム。蒸発した金属やフラックスが冷えて固まり、発生する粉塵のこと)の出ない溶接になっていて、これは技術開発の成果だ、と胸を張る。これは冒頭に記したエッヂな光景を見れば納得のひとことで、最新機材を揃えられる工場であれば、そこにはもはや3Kのイメージは存在しないだろう。

 もっとも、ひと昔前の溶接を当たり前のものとして働いていた野村氏は「小さい鉄工所でも負担にならずに買える、安いこのような製品ができないものか、と思いました」とも言っていた。言い換えれば、昔ながらの世界観の工場も、まだまだ世の中にはあるということでもある。

「とにかく”すごい、おもしろいんじゃ”というのを描いたほうが、絶対におもしろいと思うんですよ。ものづくりって、プロ意識ももちろん重要ですけど、とにかくおもしろい作業なんですよ。特に、溶接だけでなく図面から最後の塗装までを担った仕事はむちゃくちゃおもしろいんですよ。これは仕事と言っていいんかな、というくらい」と、野村氏は言う。しんどい思いしかせずに鉄工所を辞めていく人も多いだけに、ものづくりのおもしろさを知らしめることも重要なのだろう。

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■しんどいだけではなく、おもしろい

 テレビなどメディアでのステレオタイプな鉄工所の取り上げ方には、現場から見れば不満が募る。司会の馬場氏がそう水を向けると、たなか氏も口を揃えた。

「それを非常に強く感じていまして、いままでのドラマや映画では、鉄工所のマイナスイメージ”しか”描いていなかったんですよ。なぜかというと、苦労をしているというイメージを演出するのに、いちばん分かりやすい絵面なんですね。オヤジは鉄工所で苦労した、汗まみれになって働いた、という。そういうものが、どんどんメディアから溢れてくる。一方でニュースでも、不況になると町工場に行ったらそういう映像を撮ってきて垂れ流す。そこ(苦労話の部分)だけ切り取りますから。マイナスイメージが蔓延している。それに対して描きながら憤りを感じていたので。もちろん苦労をする部分もあるのですが、実際にものを作ることは楽しいですから、そこはもっと描いていかなくちゃいけない」

 しんどいだけでなく、おもしろい。生半可な決意で鉄工所で働いてみるというわけにはいかないだろうが、『ナッちゃん』『とろ鉄』を読めば、溶接や鉄工の世界を気軽に味わえる。知れば知るほど深いその魅力を、鉄工所ムーブメントをきっかけに楽しんでみてはいかがだろうか。 
(取材・文・写真=後藤勝)

下町鉄工所奮闘記ナッちゃん 東京編 3

まずは。

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とろける鉄工所(4)

次は。

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最終更新:2010/05/06 11:59
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