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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第79回

森三中 メンバーの結婚で進化する「ブスとブスとブスの関係性」

morisanchu0531.jpg『ブスの瞳に恋してる 3 』マガジンハウス

 5月22日、森三中の大島美幸と放送作家の鈴木おさむ夫妻が、東京・銀座の教文館で新刊本『ブスの瞳に恋してる3』(マガジンハウス)の出版記念イベントを行った。

 同書は、鈴木氏が大島との夫婦生活を記録したエッセー。クレオパトラのコスプレで現れた大島は、山田花子ら女性芸人の結婚ラッシュにも触れて、「自分のことのようにうれしい」と祝福。人妻になっても尻を出して笑いを取る自身の芸風に胸を張り、「花子さんもぜひやってください」と主張していた。

 森三中は、「女性の3人組」という珍しいチーム編成の芸人である。今では3人が3人ともそれぞれの個性を発揮して、バラエティで活躍する機会も多い。彼女たちが単なる「ブスキャラ」にとどまらず、現在の地位を築くことができたのは、芸人として実力があったということに加えて、女性トリオとして互いの関係性を売り物にすることができるようになったからだ。


 彼女たちはもともと、ネタが評価されて売れたタイプの芸人ではない。若手時代には、かなり前衛的なスタイルのコントを演じて『オールザッツ漫才』(毎日放送)で話題を呼ぶなど、どちらかというと世間よりも同業者に評価されるような芸風だった。だが、それがそのまま彼女たちのブレイクにつながったわけではない。

 彼女たちは、バラエティに出演して、体を張った企画にも果敢に挑んでいくことで、少しずつ知名度を上げていったのである。この時期には、大島が先陣を切って過激な企画に飛び込み、3人を引っ張っていた。

 特に、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』(日本テレビ)での印象は強烈だった。この番組のロケ企画では、大島が浜田雅功に邪険に扱われ、最後は裸になり、胸や尻や局部を堂々と露出して爆笑を勝ち取っていた。これはもちろん、すべてを笑いに変えてしまう『ガキ使』という特殊な空間だからこそ通用するギリギリの企画ではある。ただ、大島の不細工ではあるがどこか憎めないキャラクターによって、いやらしくもなく気の毒でもない雰囲気を作ることができたのである。女性芸人で、服を脱いで笑いが取れるのは大島ぐらいのものだろう。

 また、同じ企画の中で、村上知子は浜田に強引に胸をもみしだかれ、真に迫る恥ずかしそうな表情を浮かべていた。これもまた、大島の裸と並んで、お笑い史に残る伝説として語り継がれている。いずれも、従来の女性芸人ではあり得ないようなものを見せられたという衝撃があった。平気で裸になる(ように見える)大島も、胸をもまれて本気で脅えた表情を浮かべる(ように見える)村上も、どちらも女性芸人としての限界を超える決死のパフォーマンスを見せていた。

 ただ、彼女たちの個々の魅力が引き出されるのはここからだった。大島、村上の2人は立て続けに結婚を果たしたことで、従来の「ブスキャラ」「女捨ててるキャラ」からの脱却を果たした。もともと、脱いでもどこか品がある大島と、料理や家事などの趣味を持つ村上は、「ブスキャラ」というレッテルを貼られて終わってしまうような存在ではなかったのである。

 そして、事態がここに及んで、3人の関係性が一気に変わり、もう1人のメンバーである黒沢かずこに注目が集まるようになった。実は3人の中で最も変わり者だとも言われる黒沢の才能が、ここから一気に開花したのである。「キューティーハニー」の歌詞を適当に変えて熱唱する、お笑いやラジオ番組の熱狂的なファンであることを公言する、大島・村上をねたむ発言を連発するなど、黒沢が負のオーラを身にまとい、つかみどころのない不気味なキャラクターをあらわにしている。黒沢の暗黒面が拡大するのに伴って、彼女自身の体型もどんどん肥大しているというのも恐ろしい。

 ただ、これによって、森三中はトリオとしてのバランスが良くなった。比較的影の薄かった黒沢が目立ち始めて、3人それぞれが単体で通用するキャラクターになったのだ。大島が体を張ってもいいし、村上が家庭的な一面を見せてもいいし、黒沢が歌いながらスタジオに乱入してきてもいい。そしてもちろん、彼女たちの組み合わせ次第で、そこでできることの可能性は無限に広がる。3人そろっても良し、1人や2人でテレビに出てもきっちり仕事をこなす。ここでようやく、森三中は本当の意味でトリオとしてのブレイクを果たしたのである。

 それぞれが一癖あるキャラを持ち、歌がうまく器用でもある3人が、番組や企画ごとにそれぞれの役割を使い分けながら、互いの関係性そのものを日々更新していく。人々を引きつけてやまない森三中の魅力の源泉は、恐らくその部分にある。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

ブスの瞳に恋してる 3

女を捨てて女になった女です。

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ラリー遠田×担当編集S「お笑いを楽しむための”ツールとしての批評”でありたい」

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最終更新:2013/02/06 11:59
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