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娶妻願、お礼参り…… 普通の警察官のちょっとイイ話『警察官の泣ける話』

keisatsunakeru.jpg『警察官の泣ける話 』(芸文社)

 お巡りさんと言えば、おっかない印象が強い。パトカーが通るたび、どうにも自分が悪いことをしているようで気が引ける。それでこそ警察官の面目躍如であるのだが、誰もに好かれる職業ではなさそうだ。

 しかし、鬼の目に涙がキラリと光ることもある。『警察官の泣ける話』は、元・警視庁刑事で作家の北芝健氏が、警察官の感動的なエピソードをまとめた本だ。風俗嬢と結婚したいという部下のために奔走する「娶妻願」、足を洗う左翼過激派のためにカンパしたささやかな門出祝い「のし袋」など全13篇、どれも警察官ならではのハートウォーミングな内容だ。警察の世界の事情、風習、慣例などもよく分かり、興味深い。警察業界の符丁もそのままの文章には、交番や警視庁の一室にいるような迫力がある。 

 警察の世界がいかに特異か。結婚相手の職業次第で結婚が許されないこともしばしばある。相手の親族に前科者がいないことはもちろん、外国人との結婚もNG、相手が片親だというのもひっかかるらしい。これを無視して結婚しようものなら、報復人事に遭い、昇進も叶わない。世間でパワハラと呼ばれる行為が平然とまかりとおる世界なのだ。

 しかし、犯罪を取り締まる仕事だからこそ、現場には大きな悲喜が存在する。

 おすすめの一篇は前述の「娶妻願」。田舎から上京してきたばかりの高本巡査が、上司の三浦警部補に「結婚したい人がいる」と相談をした。聞けば相手は風俗嬢だという。裏社会に属する職業ゆえ、許されるわけもない。昔、交際相手の兄が学生運動家であったことから、三浦も結婚をあきらめたことがあった。「なんとか思いを遂げさせてやりたい」三浦は高本の結婚のために奔走するのだが……。

 警察官は、恨みを買ったり、言われなき誹りを受けることがしばしばある。メディアは反権力であることを正義と錯覚し、理由なき否定・批判が繰り返される。北芝氏も警察出身というだけで、大手出版社に捏造記事を四回も掲載され、社会的信用を失ったことがあるという。そうした誰もかばう者がいない警察官たちを擁護する、ということで生まれたのが本書であると、北芝氏は語っている。

 警察官もごく少数のエリートをのぞけば、普通の公務員である。法の下、身体を張って市民の安全を守る。一般社会からみれば「非日常的」な世界だからこそ、そこからこぼれ出る侠気やペーソスがある。ただ情緒的な感動秘話ではない『警察官の泣ける話』、落涙必至の一冊である。
(文=平野遼)

・北芝健(きたしば・けん)
元警視庁刑事。現職時は刑事警察、公安警察に所属。多用な事件を扱う一方、漫画原作をはじめとした執筆活動を展開。退職後は犯罪学の講義や執筆、講演、コメンテーターとしてテレビ出演など、多方面で活躍。著作は『ニッポン犯罪狂時代』、『悪の経済学』など多数。漫画原作として『こちら葛飾区亀有公園前派出所』コミックス39巻相当、『俺の空 刑事編』、『まるごし刑事』シリーズなど。

警察官の泣ける話

汚職警官は一握り?

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最終更新:2010/07/22 18:01
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