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 >  >   > “企画AV女優”たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.82

“企画AV女優”たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』

namaenashi01.jpg手取り3万~15万円のギャラでカメラの前で性をさらす企画AV女優たちの生き様を描いた『名前のない女たち』。同名のノンフィクションシリーズを劇映画化したものだ。
(c)「名前のない女たち」製作委員会

 「夢あるの? 変わりたいと思わない? 人生なんて自分の行動次第でどうにでもなるよ。もし、自分でない誰かになってみたら面白いと思わない?」

 家庭内で居場所がなく、職場でも地味で目立たない22歳のOL・純子は街でスカウトマンに優しく声を掛けられたのがうれしかった。普段から人から頼まれるとイヤと言えない性格の純子は、そのまま事務所に連れて行かれる。道に落ちている小石のように黙って生きてきた自分が、まさか女優デビューするなんて夢にも思わなかった。ただし、女優といっても”AV女優”。しかもAV女優でもメーカー側がイチオシする”単体女優”ではなく、ギャラが安く、ハードなプレイを要求される”企画女優”として。パッケージに名前がクレジットされることのない”名前のない女”としてである。

 純子は初めてのAVの撮影現場でオタク少女”ルル”という名前を与えられる。男優との絡みはどうしようもなくぎこちないものになったが、それがかえって新鮮に映ったらしく、監督からは「ルル、よかったよ」と誉められる。他人から誉めてもらったのなんて、いつ以来だろう。自分を必要としてくれる場所があることを知り、心の中でガッツポーズをする純子。それからの純子は家族や職場に秘密で、週末だけ企画女優・桜沢ルルに変身する。撮影内容はどんどん過酷になるが、頑張れば頑張っただけ事務所の社長やスタッフ、さらにはファンが「よくやったね」と誉めてくれる。企画AVという消耗品の世界で、桜沢ルルは純子という名の窮屈な殻を脱ぎ捨て、ささやかな輝きを放つ。

namaenashi02.jpg人から嫌われないよう、目立たないように生き
てきた平凡なOL・純子(安井紀絵)だが、「自分
ではない誰かになってみたくない?」というスカ
ウトマンの言葉に心が揺れ動く。

 AV専門誌「オレンジ通信」(東京三世社)に9年間にわたって連載された中村淳彦氏の企画AV女優へのインタビューシリーズは、2002年に『名前のない女たち』(宝島社)として単行本化され、その後も『名前のない女たち2』『名前のない女たち3 “恋愛”できないカラダ』『名前のない女たち最終章 セックスと自殺のあいだで』と出版され、累計25万部のベストセラーとなっている。本作は”ピンク四天王”としてピンク映画で活躍後、『刺青』(05)、『乱歩地獄・芋虫』(05)など一般映画に進出した佐藤寿保監督が原作シリーズからエッセンスを抽出して劇映画化したものだ。コスプレ少女・ルルに変身する平凡なOL・純子にオーディションで選ばれた新人女優・安井紀絵、体の奥から湧いてくる怒りの衝動をどうすることもできない元ヤンキーのAV女優・綾乃に園子温監督の『エクステ』(07)、石井隆監督の『人が人を愛することのどうしようもなさ』(07)などに出演経験のある佐久間麻由をキャスティング。2人ともヘアヌードシーンを含めた大胆演技に挑んだ。ネームバリューのない若手女優を起用したことで、劇映画ながらノンフィクション度数が高い作品に仕上がっている。

 もうひとりのヒロイン・綾乃は、男にお金を貢ぐためにAVだけでなく風俗でも働くようになる。男に依存しなくては生きていけない体質なのだ。AVの世界に足を踏み入れたばかりの純子があまりに不器用で危なっかしいことから、ついつい世話を焼いてしまう綾乃。他人の心配なんかしていられる立場じゃないが、綾乃の世話好きは逆に家族や友人、恋人から自分もかまって欲しかったという寂しさの現われだろう。精液を拭き取ったティッシュペーパーが丸めて捨てられるように、次々と企画女優たちが使い捨てられるAVの世界。人気を誇った単体女優も飽きられれば企画女優に格落ちする。そんな出口のない深い森の中で、綾乃と純子は次第に距離を縮めていく。いつか自分たちのことを誰も知らない遠い南の島に行って、嘘や見栄で塗り固めた自分たちの人生をリセットできればいいよねと夢を共有する。

namaenashi03.jpg事務所の社長(鳥肌実)におだてられ、NGなしの
売れっ子AV女優になっていく純子。業界歴の長い
綾乃(佐久間麻由)は危なかっかしくて見ていら
れない。

 発売されてすぐに原作本を購入したが、原作者・中村氏がセレクトした企画女優たちの精神病歴、自傷歴のあまりのすさまじさに、途中でページをめくる手が止まってしまった覚えがある。小学生時代の大半をホームレスとして過ごした女、セックス依存症で多重人格の女、引きこもりでリスカ癖のある女、有名企業に勤めていたが借金返済のために夫に内緒で出演を続ける主婦……。さらに『名前のない女たち最終章』では中学時代の3年間、実の父親から性的虐待を受け続けたという超弩級のDV体験者も登場する。飯島愛のようなタレントになることを夢想する若い子もいるが、中村氏は断言する。「飯島愛はタレントとしての才能があったから成功したのであって、過去にAV女優だったこととはなんの関係もない」と。それでも男たちのバーチャルな欲望を満たすため、AVの世界に足を踏み入れる女性は後を絶たない。市場規模1,000億円と推定されるAV業界で、年間にリリースされる作品数は2万本。AV女優として働く女性たちの数は、年間でおよそ1万人と言われている。そのうち95%が”企画女優”なのだ。

 社会のシステムからはみ出してしまった若い女の子たちの一種の受け皿となっていたAV業界だが、当然ながらそこは女の子たちを更生させるための機関ではなく、女の子たちの性と体と自尊心を切り売りする場所である。倫理観や道徳心を取り払ったAVの現場を繰り返すうちに、彼女たちは女性器だけでなく、心をすり減らし、さらに睡眠薬や精神安定剤をあおるうちに内臓や神経までもが疲弊していく。中村氏が取材した企画女優たちの中には若くして病死した子、自分から死を選んだ子、精神を病んでしまった子が少なくない。その後は消息を断ったケースがほとんどなので、正確な実態は分からないままだ。中村氏は『名前のない女たち最終章』の中で”メディアは人間の足を引っ張ることはあるが、決して人を救うことはできないと悟った”と記している。現在、中村氏はノンフィクションの執筆を続ける傍ら、高齢者のデイサービスの運営に取り組んでいるそうだ。

 映画『名前のない女たち』のラスト、AV界で束の間の人気者になったルルは素顔の純子に戻り、ドブ臭の漂う渋谷川を小さなボートに乗って、静かに静かに下っていく。うまくすれば海に出て、綾乃といつか約束したように南の島にまで辿り着けるかもしれない。ボートに横たわる純子は眠っているようにも、死んでいるようにも見える。このエンディングは、消えていった多くのAV女優たちを弔うための”映画葬”ではないだろうか。大勢の女の子たちが自分の肉体と性を捧げ、ボクらの鬱屈としたコドクな夜を慰めてくれた。不器用すぎて、サヨナラも言いそびれたまま去っていったAV女優たちを鎮魂するかのように、小さなボートは海に向かって進んでいく。サヨナラ、名前のない女の子たち。
(文=長野辰次)

namaenashi04.jpg
『名前のない女たち』
原作/中村淳彦 脚本/西田直子 撮影/鈴木一博 主題歌/戸川純「バージンブルース」 監督/佐藤寿保 出演/安井紀絵、佐久間麻由、鳥肌実、河合龍之介、木口亜矢、鎌田奈津美、草野イニ、新井浩文、渡辺真紀子ほか 配給/ゼリアズエンタープライズ+マコトヤ 9月4日(土)よりテアトル新宿、新宿K’s cinemaほかロードショー
<http://namaenonaionnatachi.com>

名前のない女たち

ショーゲキ。

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