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「ここであったが百年目」 現代マンガ図書館館長から見た『化物語』原画盗難事件

 9月に発生した西尾維新原作の人気アニメ『化物語』原画展で原画2点が盗まれた事件。今後のアニメ制作にも必要な資料だけに、原画展を主催したアニメ制作会社のufotable(http://www.ufotable.com/)は、自社のサイトで返却を求めているが、いまだ動きはない。

 作品をファンに親しんでもらおうとする制作者の想いをないがしろにするこの事件。しかし、イベントや展覧会、資料を保管する施設などから貴重な資料が盗み出される事件は、後を絶たない。資料を盗み出す人々の目的、そして対策はあるのだろうか。

「ファンにしてみれば”ここであったが百年目”。チャンスを逃さないわけがない」

 と、話すのは「現代マンガ図書館(http://sites.google.com/site/naikilib/)」の館長・内記稔夫氏。自身のコレクションをもとに約18万点を所蔵する同館では1978年の開館以来、幾たびも盗難事件が発生している。しかも、最初の盗難事件は開館初日に発生したというから、驚きだ。

「その時は、表紙が見えるようにして本棚に展示してた。展示品として手に触れないようにと思って、棚にビニールを貼って画鋲で留めておいたんですが……気がついたら画鋲が外れて……なくなってたんだよ。手塚治虫の『月世界の少年』と『火の鳥』(『少女クラブ』付録)、それに『ピピちゃん』(『おもしろブック』付録)が!(註:どれも超貴重品である)」

 当時はまだ、マンガを専門に扱う古書店も少なかった時代。早速、古書店に電話をして回り、売りに来るヤツがいたら連絡をしてもらうことを頼んだが、一向にどこからも連絡が来ない。

「そしたら、ある日ウチのスタッフが神田のあるマンガ専門古書店で見つけたんだ。その店にも連絡を入れてたし、ウチの蔵書だって分かりそうなもんなんだけどね」

 どうもこの古書店は、スタッフが見つけなければ素知らぬ顔で売ってしまう気だったらしい。盗品である以上は売却などできず、一人で部屋で眺めながらほくそ笑んでいるくらいしかないかと思うかもしれないが、それは違う。盗品だと分かっていても、商売するヤツは存在するということだ。

 それから30数年。館の歴史の中では今でも記憶が鮮明に残る「スゴイ」泥棒が何人も現れたという。

「何度も通ってた高校生がある日、眼鏡をかけてあからさまに変装して来て”初めてなんですけど”とやってきたことがあって。これはなにかやる、と思ってたら手塚治虫の『虫の標本箱』(註:これも青林堂版は超貴重品)を持って逃げていった。慌てて追いかけたら、下で待っていた仲間と一緒に外苑東通りを猛スピードで。その時、自分はぎっくり腰をやっていてさ………」

 この事件では、内記館長が犯人が制服で来たときの校章を記憶していたので高校に乗り込んで取り返したという。ちなみに犯人の変装用の眼鏡は、父親のものだったというオチがある。度の違う眼鏡でよくも階段を駆け下りて通りを猛ダッシュできたものだと、感心してしまう。しかも、『虫の標本箱』は箱入り本なのに犯人が盗んだのは中身だけ。それでは売っても価値はないわけだが、なぜ中身だけ欲しがったのだろうか……。

 そして、泥棒はなにも外部からの来訪者だけではないとも、内記館長は話す。

「働いていた人間にも、コイツはなにかおかしいと感じるのはいたね。閉館時間で仕事が終わっても、なかなか帰ろうとしないのとか。用もないのに大きなカバンを持って出勤してくるのとかね」

 内部の人間を疑わなければならないのは、非常に悲しいこと。だが実際に、展示会での盗難では内部の犯行が疑われる事例もあるという。例えば、06年度に川崎市民ミュージアムで開催された「横山光輝展」で展示された横山氏の初期の単行本『魔剣烈剣』が、行方不明になった事件。この事件では、撤収の際に本がなくなってしまったというから、見学者以外も疑わざるを得ないだろう。

 こうした数多くの経験を経て内記館長は「危ないヤツは態度でわかる」と話す。その上で盗難対策としてまず心得ていなければならないことは「人の目がなければ、必ず盗む」こと。そこで、現代マンガ図書館では閲覧室には必ずスタッフが常駐する体制を取っているが、それでも「リストにはあるのに行方不明」の蔵書はいくつもあるという。どんなに緊張感を持っていても盗む気満々でやって来る者には、かなわない。

 ましてや、今回の『化物語』原画展のように来場者の多くが作品ファンという状況だと、緊張感は緩む。楽しく作品に親しんでもらう目的は正しいのだが、それは同時につけ込まれる隙を生んでしまう。そんな、つけ込まれまくった事例として上げられるのが京都国際マンガミュージアム。ここは、一般公開されている蔵書を入場料のみで館内はもちろん、庭の芝生に寝転がって読むことができる「開かれた施設」なのだが、当然開館当初から盗難が相次いだという。こうなってくると「人を見たら泥棒と思え」で対処するしかなくなってしまう。しかし、それはなかなか困難だ。

「ほんの一部の人々のために、全体が悪く見られたりするのは困る」

 と、内記館長。求められるのは、利用者に不快感を与えず不心得者に隙を見せない展示方法だろう。既存の施設を見れば、美術館や博物館では展示室に、誰かしらが座って「人の目」をつくっているのは当然。貴重な図書を所蔵する図書館では入館の際にカバンをロッカーに預けるのは日常的な風景だ。

 盗まれるのは、その資料に価値があるからこそ。ある意味、資料の価値が世間に認められていることの証左でもあろう。その価値を、より多くの人に知って貰いたいのは誰でも同じ。であれば、なおさら盗難対策にも心を配らなければならない。

 ──この他、内記館長の話は、都電が走っていた頃から区画整理の話、明治大学東京国際マンガ図書館の行方など多岐に及んだが、それはまた機会を改めて記していきたい。
(取材・文=昼間たかし)

オトナアニメ Vol.13

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最終更新:2012/10/11 20:11
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