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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第13回

青少年健全育成条例改正問題に見る都政の機能不全とは!?【前編】

若手専門家による、半熟社会をアップデートする戦略提言

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■今回の提言
「改正都条例下で出版人は プレイヤーとして厚顔になれ」

ゲスト/兼光ダニエル真[翻訳家]

 今月のゲストは、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』などの翻訳や文化考証を手掛ける翻訳家の兼光ダニエル真氏。同氏は2010年夏から始まった東京都青少年健全育成条例改正問題に関して、海外向けの事情説明資料を作成したり、民主党集会に参加するなど、積極的な反対活動を行ってきた。石原慎太郎都知事が4選目を決めた今、あらためて同問題をめぐる議論のあり方や、出版業界の姿勢を問う。

荻上 去る4月10日の統一地方選で、石原慎太郎都知事が再選されました。これまでの石原都政に対する評価が多角的に必要なのは当然ですが、特に2010年に改正された、マンガ、アニメの性表現を狙い撃ちにした青少年健全育成条例の問題点は、サイゾーでも繰り返し取り上げています。

 そこで今回は、この都条例の問題について改正反対派として精力的に発言をされてきた、翻訳家の兼光ダニエル真さんをお呼びしました。2011年3月11日以降、日本に対する海外のまなざしもさまざまな意味で変化していくと思いますが、ひとまずは「コンテンツを発信する国・ニッポン」として、表現をめぐる政策形成や社会環境をどのように整えていくべきかという課題について話し合っていきたいと思います。まず率直に、今回の都知事選についての感想から話してみましょうか。

兼光 正直、石原慎太郎が立候補した時点で、ほとんどゲームアップに近かったと思います。政治家としてのキャリアも長いし、地盤も堅いし、そこに対抗できるしっかりした対立候補もいなかったので、いかに表現の自由やマイノリティの人権を尊重しない思想が目立ち失言が多くとも、そうそう落ちることはないだろうな、と。そういう雰囲気の中で、表現規制の問題も含め、都政に関する実質的な議論そのものが空洞化して成り立たなかったという印象が強いです。

 それ以前に、東京での政治の議論は、漠然とした国政の問題と同一視される傾向が強く、例えば今回の対立候補だった渡邉美樹にしても東国原英夫にしても、都政の固有の問題に取り組もうとしているようには見えなかった。つまり日本全体の問題にヒラの一国会議員として活動するよりも、むしろ強い存在感を発揮できる首都の首長というポジションを得たかっただけなのではないか、と。

 都政について都条例問題を通じて自分が痛感したのは、知事に対する議会のチェック機能が弱いことです。つまり都議会が、都庁が出してきた政策にイエスかノーを言うことしかできなくなっている。本来ならもっと議会で各党派が立法能力を発揮すべきだし、そもそも都知事が、官僚の進める政策にチェック機能を十分に発揮できているのかということ自体に、非常に不安を感じています。

「住民益」と「市民益」の 対立をどう解決するか

荻上 石原は派手なパフォーマンスでリーダーとしてのアイコンは立っているけれども、彼ひとりで条例を作るわけではありません。にもかかわらず、人々はなかなか地方議会までチェックしようとはしないし、したくても現実的に難しい。情報公開もまだまだ不十分ですし、丁寧に報道する機関も少ない。また、こうした地方選挙の場合、具体的条例をめぐる政治的課題は、よほどのものでない限りは国会以上に取り沙汰されにくい。となれば、マンガ規制条例も、石原都政に固有の問題ではなく、日本の地方議会全般に共通する問題が潜んでいると見るべきです。

 地方議会において、個々の議員や政党の掲げる政策理念は、実質的にはほとんど意味や機能を持っていません。選挙時のアピールポイントに連呼されるのは、時局・大局への目配せのほかは、配分された予算をめぐる「俺がやった」アピールばかり。「改革を謳い、既定路線を踏襲する」というような、大勢へのアピールを謳いつつ「えこひいき」的再分配に終始する、というのが圧倒的なインセンティブになっています。

 しかし地方政治とはいえど――特に日本のさまざまな産業が集中している東京都のような都市の場合――そこに住むあらゆる「住民」の利益ばかりでなく、社会の在り方全体にも影響を与える「市民」としての益も達成しなくてはならないという建前は外せない。また、「住民益」と「市民益」双方が対立した場合の吟味も重要です。都条例の問題では、「有害だと思う表現」から子どもたちを守りたい一部の人びとの「住民益」と、表現の自由を守りたい「市民益」との対立がありました。運動目線の重要性とはまた別に、こうしたジレンマをどう解決していくべきかという点について、ダニエルさんはどうお考えでしょうか?

兼光 その住民益と市民益というとらえ方は、次のように言い換えられると思います。つまり「住民益」は、その地域に長く住んできた人たちが培ってきた利害や嗜好についての議論でしょう。対して「市民益」は、ある意味でこれからそこに住む人たちがずっと生きていけるように、どういう社会環境や産業形態を整えるべきかという議論なのではないかと。

 ここで、なぜ市民益を重視すべきなのかを考えるに当たっては、経済学における「外部性」の概念が良い説明を与えてくれるのではないかと思います。つまり、通常の商取引では何かの製品を市場で売買したときに、その取引の当事者同士がそれぞれ利益を得て完結すると思われているわけですが、その過程で影響を被る取引外の要素を見落としてしまうと、例えば公害のような現象が起きて社会全体に想定外の不利益をもたらすケースが存在するわけですね。

 都条例の問題も同じで、「こういった表現を子どもに見せたくない」と感ずる規制推進派の人々だけしか立法過程に参加しませんでした。その結果、異なる立場を持つマンガ業界などの人々の当事者性がまったく無視されて、反対派にとっては自分の参加している市場のルールがあずかり知らぬところで勝手に書き換えられるというかたちになるので、どうしても遺恨が残っていきます。そうなると、ルールを守ることそのものへのインセンティブが失われ、それこそ公害のように社会を蝕む不信感となって、法律が実際には当初の目的だった機能を発揮しなくなるということにもなりかねません。

 ですから、法律を目的通りに機能させるためにも、まずは立法過程の段階から賛成・反対双方の立場の人々が参加すべき。また、立法目的に賛成か反対かの議論とは別に、表現規制の問題の場合は、ドイツや韓国や過去の日本でも行われた規制が、実際にはどういった効能を持ち、どのような問題を起こしたのかを検討する必要があるでしょう。

最終更新:2011/05/31 11:47
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