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映画『サヴァイヴィング ライフ ―夢は第二の人生―』公開記念インタビュー

チェコセンター東京所長に聞く、鬼才・シュヴァンクマイエルの楽しみ方

sl01.jpg(C)ATHANOR

 「チェコアニメの鬼才」「チェコを代表するアニメーション作家」などといううたい文句で紹介されることの多い人物、ヤン・シュヴァンクマイエル。確かに、チェコ出身であることとアニメーション作品を作っていることで、そう呼ばれるのも間違いではないが、本人いわくそうではないと。では、彼をなんと呼ぶか。「”シュルレアリスト”がもっともふさわしいでしょうね」と、日本でヤン・シュヴァンクマイエルを最もよく知る人物であるチェコセンター東京のぺトル・ホリー氏は言う。

 27日より渋谷のシアター・イメージフォーラム他で公開となる映画『サヴァイヴィング ライフ ―夢は第二の人生―』をはじめ、展覧会や書籍の刊行等、ヤン・シュヴァンクマイエルの話題が相次いでいる。各作品ごとにさまざまなテーマがあるが、シュヴァンクマイエル作品には「夢」を扱ったものが非常に多い。今回の映画『サヴァイヴィング ライフ ―夢は第二の人生―』も主題が「夢」。主人公のエフジェンは、夢の中で美しい女性エフジェニエに恋をする。そしてエフジェンは、夢の内容が気になり、精神分析医にかかり原因を探ったり、夢の操作法を勉強し夢の中に入っていく。その先にあるのは……。といった内容。夢はその人にとってどんな存在であるのかを考えさせられるテーマである。

 ……ということで、今回は残念ながらご本人の登場には至らなかったが、今年2月のライブストリーミング番組「DOMMUNE」出演時(ヤン・シュヴァンクマイエル本人と共に通訳として出演した)にも、ある意味で大きな存在感を示したチェコセンター東京のペトル・ホリー氏にご登場いただき、初めての方でも楽しめるヤン・シュヴァンクマイエルについて、また、新作『サヴァイヴィング ライフ ―夢は第二の人生―』の楽しみ方について語っていただいた。

──まずは、読者の方たちがホリーさんのことをご存じないかもしれませんので、ヤン・シュヴァンクマイエル監督との関係を教えていただけますか?

petoro-006.jpgチェコセンター東京所長、
ぺトル・ホリー氏。

ペトル・ホリー氏(以下、ホリー) 私は現在、チェコ共和国大使館勤務で、チェコセンター東京の所長をしております。シュヴァンクマイエル監督はもちろん有名だったので昔から存じ上げていました。私は日本文化と日本語を勉強して、1998年から日本に住んでいます。最初は『シュヴァンクマイエルの博物館』(国書刊行会)の翻訳で彼の仕事をさせていただきまして、2001年に映画『オテサーネク』で来日した時から通訳としてご一緒させていただいております。それからは、来日されるたびに身の回りのお世話をしたり、日本でいろんなところにお連れしたり……。

──シュヴァンクマイエル監督の側には、いつも大きなホリーさんがいらっしゃる。ご自身もシュヴァンクマイエル映画のファンだったんですか?

ホリー 最初に見たのは大学生のときだったと思います。その時は正直びっくりしましたが、すぐにハマってしまいました。こうして仕事をご一緒させていただき、監督本人からいろいろお話が聞けるのは、すごく貴重なことだと思います。

──冒頭でも伝えましたが、シュヴァンクマイエル監督は映像作家やアニメーション作家ではなく、シュルレアリストであると?

ホリー そうです。シュルレアリストの人たちに言わせると、シュルレアリスムというのは活動、運動、生き方であって、アートではないんですね。だから、シュルレアリスムに勤しんでいるのではなくて、自らのこれまでの体験が形になっている。自分の経験、自らの世界観をアニメーションや彫刻、フロッタージュ、アッサンブラージュといった、いろんな手法を道具として使って表そうとしているんじゃないかと思います。アニメーションというのは単なる手法に過ぎません。

sl02.jpg

──もともとはチェコに古くから伝わる人形劇を学ばれていたと聞きました。

ホリー シュヴァンクマイエルが人形に目覚めたのは非常に早かったと聞きました。5、6歳のころに人形劇セットを親からもらったのがきっかけです。人形劇セットというのは、チェコの家庭では誰もがもらうものなのですが、そのまま遊んで忘れる人と、それを決定的な出会いと思い込んでしまって現在にいたるという人がいるんです。シュヴァンクマイエルはもちろん後者で、その後、54年にチェコ国立芸術アカデミーの人形劇学科に入学します。チェコの情勢を少しお話ししますと、50年代はスターリン主義の暗い時代、60年代は比較的自由な創作活動が許されていたそうですが、68年にチェコ事件が起こり、70年代には自由を失ってしまったんですね。その時に、ヴラチスラフ・エッフェンベルグルという思想家に出会い、妻のエヴァとともにシュルレアリスムのグループのメンバーとなり活動をスタートするんです。

──なるほど。アニメーションの手法については?

ホリー アニメーションは単なる手法ではあるのですが、「アニメーション=魔術的な何か」ということは常に言っていますね。チェコで言うところの、17世紀の錬金術師のような。普段動かないものを動くように見せる、まるでモノに魂が宿ったかのように。それはミステリアスなことでもあり、シュヴァンクマイエルにとって、アニメーションは自分の考えを表現するのに適した手法なのだと思います。

──では、新作『サヴァイヴィング ライフ ―夢は第二の人生―』についてのお話をお聞きしたいのですが、本作はシュヴァンクマイエル作品の入門編としてはすごくいいと個人的に思います。監督が持つアイロニーとユーモアはたっぷり織り交ぜつつ、内容としてはテーマが「夢」なこともあり、共感できる部分も多い。見ていて楽しい作品でした。

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ホリー そうですね。娯楽要素が多い作品かもしれません。この作品では、「夢」というのが私たちにとっていかに大事なものかということを考えさせられるのではないかと思います。映画の中に、夢をめぐる問答がありますよね。事務所の中で、エフジェンはすごく夢を大事に思っていて、もう一方の人はたまたま見たものといって軽く扱う。エフジェンはすごく深い世界を持とうとしていて、片方は朝起きて食べて寝るというありきたりの日常を過ごしている。もう片方は、今の文明の象徴ではないかと。シュヴァンクマイエルもすごく夢を大切にしていて、彼自身も夢日記をつけているんです。サブタイトルに「夢は第二の人生」とありますが、監督いわく「夢は第一の人生」かもしれないと。

──確かに。現代は「目を開けている世界が本当の世界だ」と言われていますけど、例えば原住民で夢を非常に大切にしている部族があったりしますしね。シュヴァンクマイエル作品に過度な発展による文明、消費社会への批判も強くみられます。

ホリー シュヴァンクマイエルもプリミティブアートが大好きで、チェコで2番目のコレクションを持っていると豪語しています(笑)。それは余談ですが。シュヴァンクマイエル作品を見る時のキーワードみたいなものがいくつかあって。「夢」「文明への反抗」「欲望」「食への恐怖」「音へのこだわり」あたりでしょうか。人間の貪欲さというか、欲望を満たすためには何でもやるという人間の欲深さですね。

──「食」は大きいですよね。今回の作品でも口元のアップが多かったり、食べ物が決しておいしそうに映らない。以前、記事で拝読しましたが、幼少時代に食べることが大嫌いだったそうで、そのトラウマが映像に反映されていると。

ホリー 強いトラウマがあると思います。子どものころに無理やり食べさせられたという記憶と、今の文明は全てを食べ尽くしてしまうという意味で、「食べる」行為についての表現もひとつの見どころかもしれません。

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──ただモノを動かすだけではなく、ひとつひとつの造形へのこだわりもすごいですよね。だから展覧会等で原画や作品も楽しめるし、それが書籍になっても面白いのだと思います。

ホリー 今回は、「切り絵アニメ」という手法でやっています。映画の冒頭で本人も言っていますが、最初は製作費の節約のためにとった手法だったんですが、フタを開けてみたら、人の写真を24コマ用に撮って、現像し、プリントする。数万枚にも及ぶプリントを1枚1枚丁寧に切り抜く作業が発生してしまいました。結局は製作費も割高になってしまったそうです(笑)。ただでさえコマ撮りの撮影は時間がかかるんですが、だいたい1日で30秒程度、結局製作には3年かかりました。それだけ、映画としてのクオリティーは非常に高くなっていると思います。

──最後に観客の皆さんにひと言お願いします。

ホリー 作品を見て、純粋に楽しめるか? と聞かれたら、ちょっと難しいと答えます(笑)。やはりシュヴァンクマイエル作品は合うか合わないかが非常にわかれます。でも、1枚1枚の画の完成度の高さや、トラウマ・夢・食といったキーワード、哲学的なやりとり等、見方によっていろいろな解釈ができる作品です。シュヴァンクマイエル作品の中では、比較的分かりやすい部類なので、ぜひ注目してみてください。
(取材・文=上條桂子)

<映画>
『サヴァイヴィング ライフ ―夢は第二の人生―』
8月27日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
<http://survivinglife.jp/>

<展覧会>
「ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展~映画とその周辺~」
9月19日(月)まで
ラフォーレミュージアム原宿
11:00~20:00(最終日~18:00)
<http://www.svankmajerjp.com/>

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新刊も続々。

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最終更新:2013/09/11 18:26
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