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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第58回

ブータンと水俣市に学ぶ震災後のあるべき日本の姿【前編】

ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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今月のゲスト
草郷孝好[関西大学社会学部教授]

──東日本大震災から半年がたった現在、わずかではあるが復興事業は前へ進みつつあるように思われる。だが、日本全体を覆う暗い陰は、いまだ晴れる様子はない。そんな中、「日本を本当に幸せな国に変えるには、ブータンと熊本県水俣市の取り組みを学ぶべきだ」と、関西大学社会学部の草郷孝好教授は語る。国民の生活水準だけを見ると、決して豊かとはいえないアジアの小国ブータンは、高い国民総幸福量を誇るが、水俣市は長い間、公害に悩まされてきた都市として知られている。お金や物資に頼らない”本当の幸せ”とは、どのようにもたらされるのだろうか? 震災後のあるべき日本の姿について、考えてみたい。

神保 東日本大震災を奇貨として、日本をより幸せな国にするために、我々は何をすればいいのか。今回はその一例として、ヒマラヤ山脈麓の小さな国・ブータンと、意外な共通点がある熊本県水俣市の取り組みを見ていきたいと思います。

 まず、ブータンといえばGNH(Gross National Happiness/国民総幸福量)が有名ですが、宮台さんはどんなイメージを持っていますか?

宮台 仏教国で、貧しいが信仰生活が根付き、子どもも大人も生き生きしているイメージです。物が溢れ、部屋の中はガジェット満載なのに、誰もが浮かない顔をしている日本と対照的です。世界30カ国それぞれの「統計的中流」に属する家族の人と家財道具一式を家の前に並べて1枚の写真に収めた、『地球家族』(TOTO出版)という写真集があるけど、一番浮かない顔をしているのは日本人、一番輝いているのがブータンです。

神保 2005年の政府の調査では、ブータンは国民の97%が「幸せ」もしくは「まあまあ幸せ」と答える国で、国民の幸福度が非常に高い国だといわれています。国策としてGDP(国内総生産)やGNP(国民総生産)ではなく、GNH、つまり幸福量を増すための政策を追求していることで知られています。もっともGNHについては、「ブータンのような小国だから可能なことで、日本では難しい」といって、相対化するような見方もあります。

宮台 日本は、個人別GDPが世界2位だった10年以上前の時代でさえ、幸福度調査で世界75位より上になったことがない。今でこそ個人別GDPは23位ですが、それでも幸福度の順位とは差がありすぎる。これだけ経済的に豊かで、こんなに不幸なのは、スキャンダルです。イギリスの3倍にも及ぶ自殺率との関連でも、GNH上昇は喫緊の課題で、「GNHを上げるのは現実的でない」とほざく議論はナンセンス。GNHが低い理由を直ちに分析するべきです。

神保 今回のゲストは、タイやマレーシア、モンゴルなど、途上国の開発問題を研究してこられた、関西大学社会学部の草郷孝好教授です。まずは総論として、長期にわたる経済的な停滞や自殺問題などが取りざたされて久しい日本ですが、今年の3月に東日本大震災があり、原発事故もあった。これはある意味で、これまで私たちが歩んできた道を再考するいい機会だと思いますが、その際に、草郷さんが今こそ日本がブータンを見習うべきだと考える理由とは?

草郷 日本はこれまで、GDPやGNPを国の開発を測る物差しとしてきました。これは「富国強兵」の時代までさかのぼることができます。戦後に「強兵」の部分はなくなったものの、「富国」志向は健在で、経済競争の末に達成したものは、当然ながらGDPを物差しにした平均的な意味での幸せです。つまり、この国は「物の豊かさが保障されれば、国民は幸せになれる」という前提で成り立ってきた。幸せ=物の豊かさと定義するならば、「日本はすでに達成できた」と言い切れます。

 しかし、3年に一度、「国民の意識とニーズ」を調査する国民生活選好度調査—-「生活全般に満足しているか、それとも不満か」という指標を見るとどうか。84年は「満足」「やや満足」と答える割合が64・2%でしたが、これを頂点に数字は下がり続けています。GDPが幸せに直結するなら、70~80%になっていなければおかしい。日本は”幸福のパラドックス”に陥っているといえます。

神保 同調査では、05年には「満足」と答えた人が4%を切ったとのこと。つまり日本では、自分の生活に満足していると感じている人が、25人に1人もいないのですね。

草郷 震災をきっかけにして「どういう生活が必要なのか」を考えるとしたら、社会のあり方論が重要になると思います。日本人がどんな生活を求め、またGDP型のモデルとは違うモデルを見つけることができるのか。僕は見つけられると考えて、ブータンのモデルを研究してきました。

 ほぼすべての先進国は、日本と同じような問題にぶち当たっています。若者の疲弊、大卒者の就職難、人間関係の希薄さ、家族の崩壊など、社会問題を取り上げてみると、本当によく似ている。そこで、今までのGDP型モデルが社会や人々に与えるダメージは過小評価できないから、ほかの国でも「違う物差しを探そうじゃないか」という話になっています。OECD(経済協力開発機構)からつい最近出された「より良い暮らし指標(Your Better Life Index)」が顕著な例です。

神保 国の発展の指標としてGDPやGNPを使うことには問題があると?

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最終更新:2011/09/27 10:30
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