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「AKB48本」著者対談

岡島紳士×本城零次「ガチヲタの声をもっと伝えた方がいい」(後編)

D31_9695.jpg(c)AKS

 『AKB48最強考察 岡島紳士と18人のヲタ』(晋遊舎)の著者・岡島紳士氏と、『泣けるAKB48メンバーヒストリー 少女たちの汗と涙の軌跡』(サイゾー)の著者・本城零次氏の対談の続編。

前編はこちらから

■これは僕のヲタ芸です

――AKB48の楽しみ方、ファンとメンバーの関係性などは今までのアイドルとたいぶ違うわけで、それを伝えるメディア側も、今までとは違った伝え方が必要になってくると思うんですが、そのへんはどう工夫してますか?

岡島紳士(以下、岡島) このあいだ、TwitterでTRiCKPuSH(ライターの松谷創一郎)さんが2000年の日経新聞に載った秋元康さんのこんなコメントを紹介していました。「これからはインターネットのように『最小公倍数の原理』が支配するパーソナルなメディアが流行の拠点になる。こだわりを持つ少数が面白いと思うものが核になり、それに共感する人々の輪がドミノ倒しのように広がっていくような現象が主流となっていくだろう」。

 この読みはその通りになったわけだし、AKBの面白さのひとつに、そうしたこだわりを持った個人の物語が無数にあることが挙げられると思います。秋元さんは、これら無数の物語が口コミから広がっていって、最終的に大きなメディアが食いつくという流れが主流になっていく、ということを言っているんですね。

 アイドルをどのようにメディアで紹介するかですが、それはライターがどのようにそのアイドルと関わりたいかによって変わってくると思っています。例えば09年の夏、ももクロが(mihimaru GTの)「ツヨクツヨク」や(moveの)「words of the mind ~brandnew journey~」のカバーを始めたとき、僕はアイドルの歴史において、ももクロが「グループアイドル最強」になったと思ったんですよ。でも、ももクロの所属事務所はスターダストプロモーションなので、このままではスナッピーズやロンチャーズなど、過去に同社が展開したアイドルグループみたいにバラ売りに移行して、グループとしては終わってしまう可能性が非常に高いなと感じて。

 それで、お世話になっている「BUBKA」(コアマガジン)と「サイゾー」の編集者さんに熱く語って記事にしてもらったりした。とにかく、名前をメディアに出して認知してもらうことがまずは必要だと考えた。これは自分の個人的な思いで動いた、僕のヲタ芸ですよね(笑)。

■ガチヲタの声をもっと伝えた方がいい

――ひと昔前は、「自分はこんなに熱くハマってるんだぜ、だからこのアイドルはすごいんだぜ」といったような、ロッキンオン系の自分語りをするアイドルライターが多かったじゃないですか。でもAKB以降、それが通用しなくなってきているように感じます。

岡島 だから『グループアイドル進化論』(毎日コミュニケーションズ)では、どのアイドルがかわいいとかどの楽曲が好きかという個人的な思い入れを極力排して、売り方やシステム論を中心にしたんですよね。なぜAKBはブレークしたのかという過程を丁寧に解説することの方が、よりAKBや今のグループアイドルの魅力が世に伝わるのではないかと。

本城零次(以下、本城) 僕自身も、ガチヲタな自分と評論家としての自分、冷静と情熱の狭間で常に悩んでいて、”AKB評論家”を勝手に名乗っていますけど、それが正しいのかどうかは分からない。

 AKBの人気の真相や総選挙の順位変動の理由などは、冷静に分析して伝えるようにしています。と同時に、特定のメンバーへの熱い思いを語るとか、BUBKA的な自分語りもできるならやりたいと思いますよ。

 ただ、1冊本を出すとしたら、まずは事実の積み重ねによって成立した本を出したかったんですよ。だから『泣けるAKB』では、読者に損をさせないような、検証性が高い、密度の濃い本を作るように心がけました。そんな思いが読者の方にも伝わったのか、本の感想をブログに書いてくれている方を検索して読むと、「学校の読書感想文にする」「(学校の)読書の時間に読む」「6回泣いた」とあって、著者本人がエゴサーチしながら泣いてます。

岡島 僕はアイドル文化全般が好きなんですよ。特に、発信する側ではなく、アイドルを受容する側に興味があるので、話を聞きにいくとヲタばかりになる。だから『NICE IDOL (FAN) MUST PURE!!!』という、アイドルのファンカルチャーに特に焦点を合わせたDVDマガジンを自主制作で作ってるんです。

■ここまでできるのはAKBだけかもしれない

本城 僕はアイドルだけではなく、エンタメ系全般についても
書いているのですが、例えば今はニコニコ動画やボーカロイド、pixivや価格.comなど、CGM文化(消費者生成型メディア)がどの分野でも流行ってますよね。で、AKBにもCGMな部分がものすごくある。ファンがメンバーを育てて、グループ自体を雪だるまを転がすように動かしてきたという経緯がある。

――AKBだけではなく、初期のPerfumeやももクロなども、ファンとのコミュニケーションを重視し、ファンコミュニティーの力で育てられたCGM文化と似たような側面がありますよね。

本城 でも、Perfumeやももクロはライブやイベントはやるけれど、ファンサービスを止めてしまった(ももクロは握手会の回数が激減した)。AKBは、100万枚売っても握手会を続けているのが画期的。AKB48劇場支配人・戸賀崎智信氏の「握手会だけは絶対に妥協するな、と秋元康先生からキツ~く言われてますからね」(映画『DOCUMENTARY OF AKB48』パンフレットより)という言葉もあるように、握手会には覚悟を決めてやっていると思うんです。

 大会場を借りる費用もかかるし、1日10時間を要する場合もあるのでメンバーの負担もハンパない。そのため、メンバーが休んだら、その握手券はCDごと返品に応じたりして、そこまで公明正大にやっているのはすごいなと。これからもAKBは、握手ができる親近感は大切にしていくと思います。いわば、握手会は”AKBという名の愛の矢をファン一人ひとりに突き刺していく作業”。握手会を止めると、矢が抜けるんですよ(笑)。

岡島 エンタメ業界全般に、コピー可能なデジタルデータではなく、コピー不可能な体験の価値が大きくなっていくという流れがありますよね。もう一度バブルでも来ない限り、どの業界もお金が回っていかないから、狭く深くいくしかない。

本城 ただ、それをやることでファンとの間の絆が生まれているし、ここまでできるのはもしかしたらAKBだけかもしれないですね。ももクロがもっと売れたとして、じゃあ全国握手会をドームクラスの会場でやるかといったら、難しいでしょう。ぱすぽ☆も当分は続けると思うんですけど、今後、どうなっていくのか……。

 マドンナがレコード会社指導のビジネスからから脱却して、ライブ運営企業と契約したように、アーティストがライブとグッズの物販で稼ぐのは世界的な潮流。”アイドル戦国時代”の象徴ともいえる”会いに行ける”という体験の重要性を、ほかのグループも含め、今後アイドルがどう扱っていくのか、ものすごく注目しています。
(構成=岡田康宏)

●おかじま・しんし
アイドル専門ライター。雑誌やウェブで、アイドルに関する原稿を中心に執筆。2010年7月に自主制作したDVDマガジン『NICE IDOL(FAN)MUST PURE!!!』はAmazonアイドルDVDランクで3位を記録。近著『AKB48最強考察』(晋遊舎)。

●ほんじょう・れいじ
フリーライター・編集者。作家。AKB48を黎明期から目撃し、劇場公演を900回以上(『AKB48 LIVE!! ON DEMAND』含む)見続けている”AKB48評論家”。近著『泣けるAKB48』(サイゾー)。
ブログ <http://ameblo.jp/iiwake-lazy/>

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最終更新:2013/09/10 16:55
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