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口かせ少女とビラビラ、娼窟、日蓮が同居する京都の展覧会「閨秀2.0」とは?

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 京都大学近くの古書専門出版社「思文閣」の地下にあるオルタナティブスペース「CAVE」で「閨秀(けいしゅう)2.0」と題する展覧会が開かれている。「閨秀」とは優れた女性作家を指す古い言葉で、その名の通り女性の現代美術作家ばかりを集めたグループ展。「2.0」と題するだけに、これまでの女流作家展、閨秀展とはひと味違うものになっている。

 たとえば「口枷屋モイラ」と名乗る女性の作品は、いずれも口枷をはめられた少女の写真だ。それが金の額縁に収められ、真っ赤なビロードを一面に張った壁に掛けられている。真っ白な壁面が主流の現代美術界にあっては、ちょっと異様な展示である。

 「口枷屋モイラ」はもちろん本名ではなく、東京都在住の写真家が作った「キャラクター」だ。いわゆる「コスプレ自画撮り」ではあるものの、既存のキャラクターではないところが通常のコスプレとも違っている。モデルも写真を撮ったのも彼女本人で、誰かに指示されて撮ったものではない。なのに口枷という隷属の象徴をまとうあたり、倒錯的な雰囲気が漂う。

 撮影に使われた口枷の実物も展示してあるが、蝶ネクタイ型あり額縁型ありで、なにやらSMマニアに売れそうに思える。ところがどっこいこの口枷、若い女性に人気で飛ぶように売れているらしい。実際アヒル型の口枷が会場で売られていたそうだが、開幕早々の時点で既に完売していた。

 隣の白い壁面を見ると、こちらは一面にビラビラがびっしりと描き込まれた絵が掛けてある。表面にはラメがびっしり塗り込まれてキラキラ光っているが、その上にボロ布とも木目とも知れぬ何ものかが、ボールペンの線画で描き込まれているのだ。ラメの質感はギャルが喜びそうに見えるが、その上に跳梁跋扈する線画は触手か何かのようで、とうていギャル好みとはいいがたい。

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 こちらは中田有美という作家の作品で、作者は「陰惨とも言うべき」親族のドラマを抱えた人らしい。もともと染織出身の作家だけに布状の線描が出てきたのかもしれないが、ビラビラの絡み合いは血縁の縺れあいを物語るように感じられる。

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 いっぽう高田智美という作家の展示は、旧「赤線地帯」、つまり娼窟をテーマにした作品だ。当時使われていたボロボロの廃墟の写真のほか、建物に使われていたタイルの破片が散乱し、敵娼(あいかた)の名前や揚げ代金を記した帳簿の断片が散らばっている。作者は全国各地にある赤線地帯を憑かれたように尋ね歩き、写真に収めたりリサーチしたりを続けているらしい。

 この人もまた染織出身の作家で、写真のうちのいくつかには糸で刺繍が施されている。それにしても、女性が売春宿の写真を針で突き刺し、縫い綴じていく光景を想像すると、ちょっとゾクッとしてしまう。性の現場への愛憎相半ばする表現、とでもいえばいいだろうか。

 ところが別の壁面には、なぜか日蓮上人の絵が飾ってある。ここまでずっと「女性性」のようなものをテーマにした展示なのかな、と思って見てきたのだが、日蓮が出てきてはもはやお手上げである。この絵の作者は尾家杏奈(おや・あんな)。作家自身が日蓮宗の門徒というわけではないらしいが、日蓮宗のお寺で展覧会をすることがあり、そのときに聞いた法話が基になっているのだそうだ。

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 なんでも日蓮がとある死者を弔ったところ、孔雀が幾羽も出てきて成仏したという話だそうだが、なぜか腐敗した屍骸の方が大々的に画面を占め、肝心の日蓮は心細げに画面の端に描いてある。展覧会を頼んだ日蓮宗のお寺も相当に面食らったのではないか。

 尾家杏奈の作品は、展覧会のタイトルと素直に照らし合わせると、ある意味で完全にあさっての方向を向いている。タイトルは「閨秀2.0」なのに、女性性はなんにも関係ないし、題材も日蓮宗の法話であって、現代的とはいいがたいからだ。だが、よくよく考えるとアートなどというものは、こうした「あさっての方向を向く力」の噴出なのかもしれないな、と思う。岡本太郎的に言うなら「なんだこれは」と言わせる力、とでもいおうか。

 岡本太郎といえば「縄文の美」を誉め讃えた人として知られているが、そんな岡本太郎が見たらどう思うだろう、というような作品もあった。まるで縄文式の火炎土器みたいに一面にトゲトゲを密生させた、置物のような立体だ。南国のドリアンのようにも見えるし、新種の生物のようにも見える。サイズはちょうど壷くらいで、床の間に据えたら案外しっくり来そうだが、口の開き方が下を向いているため、壷としての機能はまったくない。まさに「なんだこれは」である。

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 作者の森文惠は学生時代に日本画を学んだ人らしく、表面の仕上げには日本画の材料が使われている。縄文遺跡で有名な青森の出身だそうで、縄文的な表現は一種の隔世遺伝なのかもしれない。

 そんなことを考えながら会場を一巡りすると、妙に牧歌的な油彩画と出会う。作者は栗田咲子といって、国立の美術館にも作品が収蔵されている作家だ。伊勢の方の村祭りを描いたという画面の上には、人を食ったような表情の馬が描かれていて、「もうどうでもいいじゃないの、難しい話は」と言われているような気がしてくる。

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 栗田は「どういう絵を描くか方針が立たないまま」の状態で好きなものを描き始め、そのまま描き続けて納得したところで描き終えてしまう。おかげでよく見るとあちこちで遠近法が乱れ、ところどころキャンバスの地色が透けている。そうした栗田の「方針の立たなさ」は、そのままいまのアートの「方針の立たなさ」を、真っ正直に反映したものなのかもしれない。日本のアートは戦後この方、定期的にコロコロ方針を転換して「方針が立たないまま」現在に至ってきたからだ。

 あたかも「方針」が立っているかのように振る舞う美術上の思想やキーワードは、アート界の混迷を覆い隠して、カッコよく見せるだけのものでしかない。これは女性性についてもそうで、あたかも一枚岩の「女性性」なるものがあり「現代的な女性の表現」があるかのように振る舞う展覧会など、ちょっと嘘くさく思えてしまう。

 だが、この展覧会はそうした一枚岩の女性性という幻想を排し、そのバラバラさ、多様性を直視して、そのまま展示している。「閨秀」という聞き慣れない言葉に「2.0」という数字を添えたタイトル通り、女性性へのアイロニカルな視線を示す、ユニークな展覧会となっている。会期は11月6日まで、是非ご覧いただきたい。
(文=編集部)

●「閨秀(けいしゅう)2.0 複数のベクトル、あるいはキャットファイト」
2011年10月18日(火)~11月6日(日)
12:00~19:00/水曜日休廊/入場無料
出品作家:尾家杏奈、口枷屋モイラ、栗田咲子、高田智美、中田有美、森文恵
主催:CAVE
企画:樋口ヒロユキ、森山牧子
協力:digmeout、FUKUGAN GALLERY、Wada Fine Arts、乙画廊
http://www.yo.rim.or.jp/~hgcymnk/00keisyuu/00keisyuu.html

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最終更新:2011/10/29 21:00
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