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『世界の陰謀論を読み解く』の著者・辻隆太朗氏に聞く

日本人が「ユダヤ資本」や「フリーメイソン」が絡む“陰謀論”にハマり始めたワケ

――そうした特色が生んだものに、新世界秩序というものがあります。新世界秩序とは「あらゆる出来事・集団・領域に陰謀の存在を見いだし、それらすべてが統一世界政府の樹立といった目標のもと、統一された陰謀のネットワークを形成していると見なす」というものですが、このような陰謀論を受け入れる要因とはどんなものでしょうか?

 人が陰謀論を受け入れる要因は2つあると思います。ひとつは時代や地域を問わず、普遍的な人間の心理的傾向や実存的欲求、人間の本性のようなものがあります。もうひとつは、それぞれの地域や社会の時代的条件が生んだ特有なものがあるということです。ひとつ目の、普遍的な人間の心理というのは、世の中に起こる事象について、「本当の真実を知りたい」という気持ちや「自分の人生や社会、世界に対して何か意味があるはずだ、それを知りたい」というものです。「社会や世界がこうであることに意味なんてない。すべては偶然の出来事だ」と考えるよりは、社会や世界には明確な意味があり、現在の社会はこうなっていると考えるほうがわかりやすいからではないでしょうか。

――そのような特色や要因を背景として、日本でユダヤやフリーメイソンに関する陰謀論が受け入れられるのはなぜでしょうか?

 本書では、なぜ日本でユダヤやフリーメイソンが広まったのかということについてはあまり手をつけられませんでした。ですから、ハッキリと分析はできていません。しかし、考えられることとして、まず第一にヨーロッパで発展してきた陰謀論の基本的なフォーマットがあります。日本で、ユダヤやフリーメイソンに関する陰謀論を主張する人は、そのフォーマットに乗って主張をします。

――そのフォーマットというのは?

 代表的なのが『シオン賢者の議定書』という文書です。この文書は「ユダヤ地下政府の会議で語られた世界支配計画が流出したもの」とされています。詳しい内容については割愛しますが、ユダヤ人が世界を征服することや、そのために娯楽による愚民政策を行うことが記されています。この文書は、19世紀末のパリでロシアの秘密警察によって作成された偽書であることが明らかにされていますが、さまざまな陰謀論の主張に影響を与えています。例えば、中国共産党による対日謀略文書『日本解放第二期工作要網』や、ロンドンのタビィストック研究所で作成された「影の政府」による人類奴隷化の計画書『静かなる戦争のための沈黙の兵器』などです。この『シオン賢者の議定書』を元にした文書のフォーマットの中心には、ユダヤやフリーメイソンが必ずいます。しかし、日本人がユダヤやフリーメイソンを知らなかったら、誰もその主張を信じません。日本にユダヤやフリーメイソンに関するイメージがある程度流布しているからこそ、受け入れられるわけです。

――いつ頃から、日本にもユダヤやフリーメイソンのイメージが流入してきたのでしょうか?

 歴史的に見ると、1918年の日本軍のシベリア出兵の際に、反革命派のロシア人経由で『シオン賢者の議定書』が日本へ入ってきました。その当時の日本は全体主義の枠組みでした。西洋で陰謀論がはやったのと同じ土俵だったわけです。つまり、民主主義や自由主義に対する警戒心が強かったのです。そのような背景の中、日本の知識人にも、ある程度ユダヤやフリーメイソンという言葉が広がったと考えられます。日本の陰謀論のフォーマットも、欧米から借りてきたものです。日本の知的な枠組みは欧米依存ですし、さらに西洋に対するコンプレックスもあります。この欧米依存と西洋コンプレックスという対立があるため、日本の陰謀論は「日本対西洋」という構図になりがちです。

――ヨーロッパの陰謀論とは違うということでしょうか?

 ヨーロッパの陰謀論では、ヨーロッパ社会の中で、ユダヤやフリーメイソンが国の中から侵食し、自分たちを裏切り、動いているとなります。しかし、日本の陰謀論では、古き良き日本の伝統や精神主義が西洋の物質主義に侵され、日本の独立が西洋に攻撃されているとなる。そして、日本を攻撃してくる西洋の黒幕として、ユダヤやフリーメイソンが存在するという話になります。

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