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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.180

“神様”との出会いと別れ、そして旅からの帰還  ドキュメンタリー『アニメ師・杉井ギサブロー』

 アートフレッシュを退職したギサブローはグループ・タックの設立メンバーとなり、『ジャックと豆の木』(74)で劇場デビューを果たす。アニメーター1人ひとりがキャラクターを個別に作画するという画期的なスタイルで製作されたが、資金難からスタッフが脱落していくという師匠が舐めた苦渋を同じく味わうことになる。このときギサブロー35歳。仕事仲間に「かすみを喰って生きる」とうそぶき、長い長い放浪の旅に出る。ただし実際問題として“かすみ”を喰って生きていくことはできない。この空白期間にギサブローが手掛けたのは『まんが日本昔話』(75~94)のコンテづくりだった。東京に残した家族への生活費を送るために引き受けた仕事だったが、1話ごとに作画もテイストも変わるという『まんが日本昔話』の個性的なスタイルは、ギサブローにとって理想の形だったはずだ。

gizaburo03.jpg最新作『グスコーブドリの伝記』を手塚プロ
で製作するギサブロー。旧知のスタッフと
手塚プロとの混成チームをギサブロー
は束ねる。

 空に浮かぶ雲を追うような放浪を続けたギサブローだったが、約10年に及ぶ旅の生活を経て第一線にカムバック。ここからギサブローの黄金時代が幕を開ける。あだち充原作の『ナイン』『タッチ』がテレビ版&劇場版ともに大ヒット。宮沢賢治原作の児童文学のアニメ化『銀河鉄道の夜』(85)は作品の評価と興行成績で成功を収める。ジョバンニ少年のあの世への旅と現実への帰還を幻想的に描いた『銀河鉄道の夜』はギサブローの代表作となった。世紀が変わり、ギサブローは再び宮沢賢治の児童文学を題材にした『グスコーブドリの伝記』のアニメ化に取り掛かる。ギサブロー69歳。だが、グループ・タックが倒産し製作中止寸前に追い込まれる。『グスコーブドリの伝記』は手塚プロダクションが製作を引き受けることに。師である手塚治虫はすでに亡くなっていたが、ギサブローは30数年ぶりに師・手塚治虫のもとに帰ってくることになった。

 多くの人が涙した『グスコーブドリの伝記』の主人公ブドリの行動を“自己犠牲の精神”と簡単に語ってしまうことはできるが、ギサブローはそうではないと手塚プロに集まった新旧スタッフを前に説明する。火山の研究に情熱を注ぎ、冷害を防ぐために自分の身を献じるブドリを突き動かしたのは“欠落感”なのだという。

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