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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.182

カメラマンは法を犯してもかまわない!? 国家の暗部を暴く男の情念『ニッポンの噓』

 福島菊次郎が手にしたカメラは、持ち主の生き様に感応して特殊な能力を発揮する。権力者がいくら巧みに噓を並べても、真実だけを浮かび上がらせる。菊次郎によると広島の平和記念公園も“平和記念都市”という呼び名も、すべて噓なのだそうだ。それらは日本の戦争責任を欺くための巨大な噓なのだという。そして、菊次郎は福島原発事故でも権力者たちはまた噓をついて国民を欺こうとしていると指摘する。この国の噓を暴け。菊次郎のカメラは、持ち主をまだ休ませようとはしない。

nipponnnouso04.jpg近代科学の粋を集めた最新鋭戦闘機を製造する工場。
自衛隊および軍需産業の内部を撮った写真は
国内外で大きな波紋を呼んだ。(c)福島菊次郎

 「これが最後の仕事」と称して、菊次郎は2011年9月の反原発集会、さらには福島の被災地へと向かう。90歳となる彼のモノクロ写真は、今なお見る者の網膜に突き刺さる。被災地の瓦礫の山が、広島の記憶と繋がっていく。撮影旅行を終えた菊次郎は山口の自宅へ向かう帰路、途中下車する。自分をこの世界に導いてくれた恩人に逢うためだ。1967年に亡くなった中村杉松さんの墓の前で、菊次郎は嗚咽する。中村さんのお陰でプロのカメラマンになることはできたが、本当に中村さんの“仇”を討つことはできたのかと自問する。

 最後にもうひとつ、福島菊次郎が本作で語っている印象的な言葉を紹介したい。「カメラの中立性なんてない。中立的な立ち場でしか撮らないから、いい写真もいいドキュメントもできない。それは、撮る人にとっては楽なわけ。危ないところなんかに入らないし。でも、それでは報道はできない」。

 権力者の噓を見破り、それを暴け。そして、みんなに知らせろ。福島菊次郎のメッセージに応えられる人間は、この国にどれだけいるだろうか。
(文=長野辰次)

『ニッポンの噓 報道写真家・福島菊次郎90歳』
監督/長谷川三郎 撮影/山崎裕 プロデューサー/橋本佳子、山崎裕 朗読/大杉蓮 配給/ビターズ・エンド 8月4日(土)より銀座シネパトス、新宿K’s cinema、広島八丁座ほか全国順次ロードショー ※8月4日は銀座シネパトスにて田原総一朗と堤未果とのトークショーあり(12:15の回上映終了後)。
<http://www.bitters.co.jp/nipponnouso>
(c)2012『ニッポンの噓 報道写真家・福島菊次郎90歳』製作委員会

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