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読んだ後もずっと怖い! 記憶に入り込むノイズのような不安が襲う『後遺症ラジオ』

kouisho.jpg『後遺症ラジオ』(講談社)

 あやふやな記憶に対する恐怖というものがある。僕の場合、やけにだだっ広い空き地みたいな場所(今探しても見つからない……)で誰かと遊んでた記憶とか、山道で親の運転する車が派手に脱輪した記憶(どうやって帰ってきたか覚えてない)とかがそれだ。ヤマもオチもないし、本当にあったことなのかも疑わしいのだけれど、そういう不確かな記憶は、ふとした瞬間に蘇って僕を薄気味悪い気持ちにさせる。

 中山昌亮の『後遺症ラジオ』(講談社)は、そんなノイズのような恐怖の記憶を植え付ける作品だ。「ラジオ」にちなんで、「89.27MHz」といった無機質なサブタイトルが付けられた各エピソードには、どれもわずか数ページで、物語というより不可解な体験が描かれている。突然、“何か”に髪を引っ張られたり、不思議なものが見えたりする様子を、ほとんど説明もなく目の前に提示されるのだ。

 そうして描かれた断片は徐々に積み重なり、やがてつながりや全体像らしきものをぼんやりと見せ始める。まるで、恐ろしいものの正体に少しずつ迫っているようで、実は相手のほうがジワジワと近づいてきているような……そんな気持ちにさせる読み味だ。

 しかし、この作品の真骨頂は、全体像が見えてきたときの恐怖ではなく、全体が見えないまま断片を突きつけられるという、得も言われぬ不安感にある。

 人は理解できないものに名前や理屈をつけることで、恐怖や不安を抑えようとする。だから、整合性のある“物語”になればなるほど、読み手も怖さに折り合いをつけやすくなる。だけど、物語化されていない断片は、整合性がないがゆえに不安となる。子ども時代のあやふやな記憶の恐怖と同じように、単体ではヤマもオチもないため、異質なものとして記憶に残り、不条理な恐怖としてこびりつくというわけだ。

 この作品を読む人は注意したほうがいい。読んでいる最中や読み終わった直後はもちろんだが、『後遺症ラジオ』はそのずっと後まで怖い作品なのだ。忘れたころに、ふと作中のワンシーン、1コマを思い出してゾクッとさせられる。まさに“後遺症”を読者に与える作品だ。
(文=小林聖)

最終更新:2012/11/28 21:00
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