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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.203

あの低視聴率ドラマ『鈴木先生』が映画版に! “鈴木式教育メソッド”は世界を変えられるか?

suzukisensei2.jpg鈴木先生が理想のクラスを実現するスペシャルファクターとして選んだ
優等生の小川蘇美(土屋太鳳)。映画版でも妄想サービスカットがあるよ。

 「今の学校教育は、手のかからない生徒の“心の摩耗”の上に支えられている」と考える鈴木先生の教育指導は一貫している。学校側・大人の都合を「これが社会の常識だ」と生徒たちに押し付けることはしない。問題を起こした当事者同士を適切なタイミングで、冷静に落ち着いて話し合える場所に呼び出す。当事者同士を徹底的に話し合わせることで、自分とは異なる立場や考え方があることに気づかせる。鈴木先生は話し合いが逸脱しそうなときに軌道修正を促すだけで、何が正解なのかは生徒たち自身が決めなくてはならない。これは、けっこー子どもには難儀だ。「先生(大人)に言われた通りに従っただけ」という言い訳がいっさいできなくなる。すべて自分の頭で考えて行動することが求められる。徹底的に話し合った結果、学校や社会の矛盾に突き当たり、鈴木先生自身が戸惑うことも少なくない。

 鈴木式教育メソッドは、演劇の稽古によく似ている。鈴木先生は具体的にあーしろ、こーしろとは言わない。生徒たちの個性に合わせて、ディレクションするだけだ。劇団・鈴木先生に所属する役者である2-Aの生徒たちは自分の頭と体をフル回転させて、ひとつひとつの動作や台詞の言い回しを考えなくてはいけない。役者同士のコミュニケーションも大切だ。相手がどういうキャラクターなのか理解していないと舞台は成り立たない。時間はかかるが鈴木式メソッドを理解することで、生徒たちはアドリブの効く一人前の役者へと育っていく。原作者である漫画家の武富健治氏は大学時代に教育実習を経験しているが、むしろ漫画家としてブレイクする以前、30代のときに劇団を経験したことが『鈴木先生』の世界観に大きな影響を与えている。舞台出身の長谷川博己が鈴木先生を演じたこともあって、教室をひとつの舞台として描くことがTVシリーズではスムーズに進んだようだ。

 映画『鈴木先生』では、鈴木先生と2-Aの生徒たちのTVシリーズから一歩進んだ実践的授業が描かれる。夏休みも終わり、生徒会役員選挙や文化祭の準備で2-Aの生徒たちは忙しい。文化祭で舞台『ひかりごけ』を上演することになり、小川蘇美たちは放課後も近くの公園で熱心に稽古を重ねる。公園の一角には喫煙スペースが設けられており、そこには無職風の男たちがたむろっている。万が一でも子どもたちがおかしなことに巻き込まれたら大変と、公園内の喫煙スペースが撤去されることに。憩いの場を失った男たちの感情の捌け口は……という展開だ。TVシリーズ全10話が1話ずつ丁寧に原作のエピソードを整理していたのに比べ、映画版は原作8~11巻分を2時間の枠に強引に詰め込んだ感がある。だが、そこは鈴木先生を見習い、頭ごなしに否定するのではなく、映画『鈴木先生』のプラス面を見つめたい。TVシリーズが2-Aというクラス内の小さな世界を描いていたのに対し、映画版では生徒会役員選挙や文化祭をめぐる中学校全体の物語となり、また公園に置かれた灰皿を撤去すべきかをめぐるエピソードでは、学校外の社会へと意識が広がっていく。気心の知れた教室を出て、部外者たちを相手に不確定要素の多い状況の中でどう対処するべきかを2-Aの生徒たちは求められる。

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