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テレビウォッチャー・てれびのスキマの「テレビ裏ガイド」第16回

何が本当の「まとも」なのか――『まほろ駅前番外地』で起こる小さな奇跡

 原作は三浦しをん。第1作の『まほろ駅前多田便利軒』(文藝春秋)は、大森立嗣の脚本・監督で映画化。そして第2作となる『まほろ駅前番外地』(同)は、同じキャストで監督を大根仁に代えて連続ドラマ化されるという、少し変わった成り立ちをしている。

 原作や先に映画があるという状況の中で、大根は「番外地」の名の通り「確かにまほろの世界観はあって、多田と行天は出ているんだけれども、原作や映画の世界とは違うパラレル的なものを作ろう」(公式HP)ということで主演2人のキャラクターを生かしつつ、原作にはないエピソードを盛り込んで(というより、ほとんどオリジナル脚本で)ドラマ化した。実際、第1話は『電気グルーヴのメロン牧場~花嫁は死神4』(ロッキングオン)に書かれた、ピエール瀧と「静岡プロレス」のスタンガン高村とのエピソードが元ネタになっている。

 昨今、原作ありきの映像作品が頻繁に制作されているが、原作ファンから反感を買っているケースは少なくない。しかし大根の場合、近作でも『モテキ』『湯けむりスナイパー』など、原作ファンからも愛される映像化を成功させている。本作もまだ2話までしか放送されていないが、原作にはないエピソードでありながら、「まほろ」としか言いようがない世界観を作り出している。それはいったいなぜなのだろうか?

 かつて大根は、自身のブログに橋本忍の『複眼の映像』(文藝春秋)に書かれた、“原作物を脚本化する”ことに関する、伊丹万作と橋本の会話を引用している。

「原作物に手をつける場合には、どんな心構えが必要か」と師である伊丹に問われ、橋本はこう答えている。

「牛が一頭いるんです。(略)私はこれを毎日見に行く。雨の日も風の日も…あちこちと場所を変え、牛を見るんです。それで急所がわかると、柵を開けて中へ入り、鈍器のようなもので一撃で殺してしまうんです。もし、殺し損ねると牛が暴れだして手がつけられなくなる。一撃で殺さないといけないんです。そして鋭利な刃物で頚動脈を切り、流れ出す血をバケツに受け、それを持って帰り、仕事をするんです。原作の姿や形はどうでもいい、欲しいのは血だけなんです」

 これに大根は「この一文だけでも読む価値があった」と賛同し、自分も「(原作物で)上手くいったものは間違いなく『一撃で殺せた』ものであり、上手くいかなかったのは『殺し損ねた』ものだ」と振り返っている。まさに、そこに流れる「血だけ」があれば、「姿や形はどうでもいい」のだ。

 第2話の「麗しのカラオケモデル、探します」も出色だった。ひと昔前の古いレーザーディスクのカラオケビデオに映った女性を探してほしい、といういかにも『探偵!ナイトスクープ』(朝日放送)にありそうな依頼を受ける多田と行天。2人は『ナイトスクープ』ならぬ、「探偵!スクープナイト」のスタッフを装い、その女性の行方を追う。

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