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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.212

裏方スーパースター列伝、あの超絶技が蘇る!『セックスの向こう側 AV男優という生き方』

sex_no_mukougawa2.jpg国民的AV男優といえばこの人、加藤鷹。人気AV女優・樹まり子との蜜月時代を
「公私ともに、とても充実していた」と振り返る。

 “ゴールドフィンガー”の異名を持つ加藤鷹は、これまでに抱いた女優の数は8,000人になる。“潮吹き名人”として有名な加藤鷹だが、彼を人気AV男優へと押し上げたのは超絶テクニックよりも、むしろ女優に対するソフトな接し方にあったようだ。「プライベートでのセックスもAVも変わらない」「いまだに女性というものが分からない」とやんわり話す。彼の代名詞となった“潮吹き”も、女優の個性を引き出すための営業努力の一環として開発されたもの。地元・秋田で優秀な営業マンとして鳴らした後、AVの世界に足を踏み入れた加藤鷹の職業意識、女性観が伝わってくる。そんな加藤鷹が嫉妬した存在が、“ひびやん”こと日比野達郎。ビニ本の撮影をしていたカメアシ(カメラ・アシスタント)から撮られる側になり、さらに裏ビデオに出演するようになった。AV界の夜明け前からキャリアを育んできた超ベテラン男優だ。加藤鷹のようなイケメンでもなければシェイプアップされたボディでもない、オットセイのようなぽっちゃり体型のおじさんだが、“癒し系男優”として女優たちから抜群の支持を得ている。どうもAV男優の人気のバロメーターはルックスの良さやチンコのデカさではないらしい。初対面で無防備な女優たちをすっぽりと受け入れる、男としての度量の大きさが重要のようだ。

 元祖風俗ルポもの『フーゾク魂』(青林工芸舎)で知られる漫画家でもある平口広美、これからデビューする緊張ぎみのAVアイドルたちの相手を度々務めた平本一穂、“ナンパの帝王”と呼ばれた島袋浩らAV創成期から黎明期に登場したベテラン男優たちがAV業界入りしたきっかけ、潮吹きの正体、AV男優だけで食べ続けることの難しさを真摯に語る。ベテラン男優たちの個性豊かさに圧倒される一方、マッチョ、イケメン、技巧派が現われるようになった若手男優の中で異彩を放っているのが、しみけん。1979年生まれのしみけんは高校卒業後にみずからAVメーカーに履歴書を送る就活を行なった。「君、ウンコ食べられる?」というAVメーカー側からの質問に、「はい」と答えたことでAVデビューが決まった。初めての撮影でウンコを呑み込んだ代償として、1万5000円の日当と激しい下痢に見舞われたそうだ。男なら誰もが一度は憧れる世界だが、パンツと一緒にプライドもすっぽり脱ぎ捨てなくてはならないことが分かる。

 女性向け試写会が開かれた渋谷アップリンクにて、トークショーを控えた髙原秀和監督、えのき雄次郎監督、そして本作にも出演しているAV男優の平本一穂に話を聞いた。ピンク映画出身、AV監督作は500本を越える髙原監督が本作の企画意図をこう語る。「4〜5年前に企画を提案したときは、『AV女優じゃなくてAV男優のドキュメンタリーなんて誰が観るんだ?』と断られた。でもAVが誕生して30年。性文化も性意識も映像による性表現もどんどん変わってきている。最近だとエロメンと言って女性向けAVで若い男優が人気を集めているわけでしょ。AV女優の話だと、どうしてもトラウマや不幸話になり、けっこうきれいごとでまとめられてしまいがち。今回のドキュメンタリーは平本をはじめ、俺らが一緒にずっと仕事をやってきたヤツらがほとんど。やっぱりAV男優って面白いですよ、チンコひとつで生きているという逞しさもある。それに恋愛や性って、自分の幻想や思い込みでしか語られないし、自分の経験した女性の数でしか考えることができないけど、AV男優たちは数千人もの女性と仕事とはいえ肌を合わせている。もしかしたら彼らには俺たちには見えない世界が見えているんじゃないのか。そんな想いから、企画書の段階から『セックスの向こう側』というタイトルにしたんです」。

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