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日本人が抱く、裸体への悲しき郷愁「女体盛り」の深すぎる歴史を探る!

【サイゾーpremium】より

――エロと日本の伝統が結びついた最高傑作「女体盛り」、そのルーツはどこにあるのか? 江戸期の艶本に描かれた吉原の遊び? それとも、戦後、マンガや映画の中で作られただけのもの? 近世以降の風俗史と食文化史とを横断し、女体盛りの深すぎる歴史に迫る!

1306_nyotai_01.jpg江戸末期~明治の浮世絵師・月岡芳年が描いた風俗画『風俗三十二相』より。女性が持つ皿の上には刺身や煮物などが見える。(「国立国会図書館」ホームページより)

 2012年7月、食に関するイタリア・ローマ発のニュースが日本で話題となった。有名日本料理店「RISTORANTE YOSHI」において「BODY SUSHI」なる料理が供せられており、「日本のNYOTAIMORI」という説明が付されているという。NYOTAIMORIとは女性の裸体に刺身を盛り付けるあの「女体盛り」で、モデル代199ユーロのほか、ひとりの客につき別途59ユーロでオーダー可能(ちなみに男性モデルでも可)だという。これをイタリアの全国紙「コリエレ・デラ・セラ」が「日本の流行」として報じたからさあ大変。在イタリア日本大使館が「日本の伝統というのは商売目的ででっちあげられた迷信」として同店に抗議、さらにこれを受け、朝日新聞が日本国内でも報じたのである。

 実は近年、女体盛りに関するこの手のニュースが増えている。アメリカ国内にも同種のレストランは存在するし、英国ロンドンでは女体盛りのケータリングも存在。04年には中国・昆明の日本料理店で女体盛りが提供され非難の的となり、11年には南アフリカで与党議員が女体盛りパーティーに出席、政界スキャンダルにまで発展した。

 かの地の人々がどこまで信じているのかは定かでないが、いずれのケースにおいても説明書きとして付されているのは「日本の伝統」「日本の富裕層にのみ許されたエキゾチックな習慣」などの言葉の数々。しかし、一般の日本人からしてみれば、女体盛りなどマンガや映画の中でしか見たことがなく、ましてや日本料理店で提供されているなどにわかには信じられないことであろう。

 では、女体盛りはどこにあるのか? というか、本当にあるのか? 富裕層のあやしいパーティーに行けば見られるのか? 本当に日本の伝統なのか? 本稿では、女体盛りなる存在の歴史について迫ってみたい。

 まずは江戸期。戦乱のない安定した時代が長く続いたこともあり、江戸、そして大坂を中心に豊かな文化が開花、吉原などの遊里を中心に売買春のシステムも高度に発達したことは知られた事実だ。艶本(春本)、枕絵(春画)などの当時のエロ本から大名の娘の嫁入り用セックスガイドまで数多くの文献が残る中、遊女向け性技指南書『おさめかまいじょう』に、こんな一文がある。

「くせもんあり。はんばより、酒、さしみを取り食らうに、ぼぼあけさせ、ぼぼ水にワサビ付け、さしみを食らう(好色心の強い男に、女性器を開けさせ、その液につけて刺身を食べるヤツがいる)」

 おお、これぞ女体盛りの起源?

「いやいや、江戸時代の衛生環境を考えると、生魚を体の上に載せて食べるなんて行為は考えにくいですね。海に近い江戸・深川の遊里では刺身のメニューもあったようですが、冷蔵・冷凍技術もない時代には、遊里に着いた時点ですでに多少は傷んでいたはず。体温で温められた刺身なんて、危なくて食べられたものではありませんよ」(時代小説家・評論家の永井義男氏)

 つまり、そもそも女体盛りに載せる刺身や寿司からして、今ほど一般的な食べ物ではなかったと。

「そう。刺身は海沿いの地域に限られた食べ物でしたし、寿司も初めはなれ寿司のように発酵させた保存食。江戸後期には生魚を酢飯に載せた握り寿司も食べられてはいましたが、最初は屋台で売られる庶民のファーストフード程度のものですからね」(同)

 とはいえ永井氏によれば、現代に比べればはるかに娯楽の少ない江戸期のこと、食と性という二大娯楽は分かちがたく結びついていたという。

「深川が典型的ですが、遊里では料理屋に上がって遊女を呼び、豪華な食事や酒に舌鼓を打ちつつ、奥の座敷でセックスをするまでが1セットとなっていました。いうなれば遊里は、質素で単調なケ(日常)に対するハレ(非日常)の場。食と性を同時に豪勢に楽しむという点では、女体盛りに通じる日本人の精神性はこの頃からあったのかもしれません」(同)

 さらに、女体盛りはなくともそれに類する行為はあったと話すのが、性風俗研究家の下川耿史氏だ。

「女体盛りと同じく女性の裸体を器に見立てるという意味では、足を閉じた女性の股間に酒を注いで飲む『ワカメ酒』があり、花街の遊びとして江戸時代の文献にもよく出てきます。ただ、ワカメ酒にしても、『おさめかまいじょう』に書かれた刺身の食べ方にしても、あくまでなじみ客と遊女との秘められた一対一の遊び。何度も遊女と逢瀬を繰り返して特別な関係を結んだからこそ可能だったことで、カネさえ払えば誰でも楽しめたということではないでしょう」

 こうした事実は、明治期になっても基本的には変わらなかったようだ。性風俗研究者としても知られる国際日本文化研究センター副所長・井上章一が執筆・編集に携わった『性的なことば』(講談社現代新書)によれば、かの伊藤博文もワカメ酒の愛好家だったという説もあるそうで、やはりこの種の行為は、色街における秘め事としてのみ伝わっていたのだろう。

 さらに時代が下ると、「花電車なるお座敷芸の存在が文献に現れる」(前出・下川氏)という。花電車とは、女性器に差し込んだ筆で文字を書いたり性器で碁石やコインを吸い上げたりするお座敷芸で、1920年頃から遊郭などで広がりだしていたとの話も。現在の東京・向島にあった色街・玉の井の森八重子という芸者の得意芸だったとの説が有力で、32年に記された『昭和奇観苦心探検 女魔の怪窟』では、その森八重子の芸のひとつとして、「皮をむいたバナナを女性器に挟み、力んで2つに折る」というものを紹介している。昭和期に入るとゆで卵を女性器で割ったりする芸者の記述もあったりするとかで、男の欲望の前で女性と食を同時に楽しむ、あるいは女性を食の器に見立てて楽しむといった文化は、連綿と続いていたようだ。

■高度経済成長期の食と性の運命的な邂逅

 一方食べ物としての刺身は、江戸末期以降、醤油の一般化などと共に徐々に広がりを見せていく。しかし、やはり遠方へ運ぶ場合には発酵させたりヅケにしたりが主流で、現在知られていているような刺身を楽しめたのは、比較的海沿いの地域に限られていた。水揚げ後、日がたった魚の肉を火を通さずに食すことが内陸部においても一般化してくるのは、技術の進歩によって漁獲高が飛躍的に増加し、さらに50年代後半に冷蔵庫が普及し始めてからである。

 そして60年代、女体と刺身は、ある時代背景のもと運命的な邂逅を果たす。その時代背景とは、日本をイケイケへと駆り立てた高度経済成長、そして邂逅の場は、その時代を支えたサラリーマンたちが大挙して押し寄せた、地方の温泉街だ。『ヴァギナの文化史』『ペニスの文化史』(共に作品社)など性の文化史シリーズを手がけた同社編集者の内田眞人氏は語る。

「今知られているような女体盛りが発明され、普及したのは、間違いなく高度経済成長期でしょう。あの時代、モーレツ社員を企業がねぎらうため、地方の温泉地に社員をまとめて連れていく社員旅行の文化が生まれます。時代は右肩上がりの好景気ですから、迎える側の温泉地は客の取り合いで競争を迫られる。その頃の客は基本的に正社員の男性ばかりですから、競争道具としては性的サービスが手っ取り早い」

 前出の下川氏も続ける。

「日本で初めて女体盛りを提供したのは、石川県の加賀温泉郷にある山中温泉だといわれています。近くの山代温泉も有名でした。といっても 皿 になったのは色街の芸者などではなく、多くはコンパニオンだったようですが。団体旅行が盛んだった頃の温泉街は歓楽街でもありましたから、箱根や熱海など、全国各地で似たサービスはあったのでは」

 こうして女体盛りは、徐々に世間に知られていく。しかし、そこはやはり性なる秘め事。かかわる者たちがそのことを堂々とカミングアウトするようなものにはなり得なかったため、なかなか記録に残ることはなく、結果、門外漢にとっては「存在は知っているが、実際にどこでやっているかはよくわからない」といった、茫漠とした存在の域を出ることはなかった。そのことがのちに海外での誤解を生む遠因にもなっていくのだが、代わりに、実際に参加できない人々の好奇心を満たすべく積極的な役割を担っていくのが、男性誌や実話誌などの男性向けメディア、そしてマンガや映画などであった。

■「三丁目の夕日」的な女体盛りが放つ郷愁

1306_nyotai_13.jpgアマゾンにて販売されている女体盛り皿、お値段は1260円です。(2013年5月現在)

 例えば、時代がバブルに突入していく83年に創刊された男性誌「GIGOLO」(平和出版)では、創刊号の巻頭で女体盛りが特集されている。「男の湯の町ロマン女体盛り」なるタイトルを付されたそのグラビアは5ページにわたって女体盛り写真を展開しているが、あくまでも編集部が用意したモデルに女体盛りを施したものであって、温泉地での 本物の 女体盛りを撮影したものではない。

 時代は前後するが、団鬼六原作のにっかつロマンポルノ『奴隷妻』(76年)では、レイプに縛りと散々いたぶられた女性が、挙げ句の果てに焼きたてのステーキを盛り付けられるシーンが登場。作中での食のシーンが印象的な伊丹十三監督も、『タンポポ』(85年)で女体盛りの変型版を登場させている。

 しかしその後バブル期を迎え日本が本格的に豊かになり、企業による社員旅行が忌避されるようになってくると、温泉地等での女体盛りサービスは陰りを見せ始める。個人旅行が好まれるようになり、宴会場でのバカ騒ぎは恥ずべき行為へと転落していくのである。

 もちろん、女体盛りという行為自体が完全になくなってしまったわけではない。一部の温泉地では相変わらず続いていたであろうし、色街の名残りを残す料亭などでの密かな遊びとして、あるいはフェティッシュな好事家たちのショーの出し物としては供され続けていただろう。ただ、各地の温泉地で、社員旅行の幹事が旅館の担当者に耳打ちすればその準備をしてくれるという60~70年代的な状況は、収束を迎えていくのであった。

 一方で女体盛りは、マンガや映画の中で、ある種のネタと化していく。日本がまだ豊かにはなりきらず、しかし勢いのあった高度経済成長期の象徴へと転化をしていくのである。例えばマンガ評論家の呉智英氏は、こう語る。

「マンガに登場する女体盛りとして真っ先に思い浮かぶのは、09年に映像化もされた『湯けむりスナイパー』。98年から『漫画サンデー』(実業之日本社)にて連載されたこの作品には、山岸トモヨという元ストリッパーが登場する。彼女は今ではすっかりおばちゃんなのですが、たまに旅館に呼ばればっちりメイクを施すと昔の妖艶な姿に逆戻り、団体客に向けて女体盛りサービスを提供し、男性客を大喜びさせます。同作の原作を担当するひじかた憂峰は、市井でしたたかに生きる庶民を好んで描いてきた人。今では酒浸りというこのトモヨにも、決して誰にでも自慢できるわけではない職業をきちんとやり遂げた女性という、どこか温かい視線が注がれています」

 この「温かい視線」こそ、女体盛りに対してわれわれ日本人が抱く、『三丁目の夕日』にも似た、高度経済成長への郷愁だったのではないか。

 さらにそのあと、2000年になって「週刊モーニング」(講談社)に連載された『リーマンギャンブラー マウス』になると、事情は異なってくる。ここで描かれる女体盛りは、家庭も顧みず社畜として働きながらギャンブルに狂ってしまったあるサラリーマンを鼓舞する存在である。全財産を投げ打つ恐怖を感じながらギャンブル場でサイコロを振る直前、「インドまぐろ子」の女体盛りを食らい彼女とまぐわった主人公のマウスは激しい精神の高揚を迎え、ギャンブルに勝つ。その過程は強烈なバカバカしさをもって描かれるが、これはそのまま、高度経済成長期のモーレツサラリーマンのバカバカしさを表現してはいまいか。00年代を迎え日本人は、高度経済成長期の日本を、そしてその象徴としての女体盛りを、単なる「良かった時代」としては眺められなくなってしまったのである。

 さて、国内においてはこのように受容されていった女体盛りだが、海外においては、これとは違った形でネタ化して展開していく。それはまずバブル期において、ニューヨークのビルを買い漁るイエローモンキーの象徴として現れる。映画ライターのタダーヲ氏は語る。

「ジャパン・バッシングが色濃く感じられるアメリカ映画『リトルトウキョー殺人課』(91年)や『ライジング・サン』(93年)が象徴的です。この2作は共に日本のヤクザを扱っており、どちらにも当たり前のように女体盛りが登場しますが、すべてが フジヤマ、ハラキリ、ゲイシャ な世界観で描かれており、その勘違いっぷりはすさまじい」

 前者では、灰色スーツの男たちが、横たわる金髪女性に盛り付けられた握り寿司や手巻き寿司をごく普通にパクついている。こうした世界観が、冒頭で述べた勘違いされた女体盛り受容につながっていくのだろう。

 一方で、もう少し時代が下ると事情は変わってくる。B級映画マニアを喜ばせた『SUSHI GIRL』(11年)では、タランティーノの『キル・ビル』(03年、04年)のごとく、バカバカしくも忍者的な、完全なネタとしての女体盛りが描かれているのである。

 さて、再度問おう。われわれ日本人はなぜ女体盛りを発明し、そして愛してきたのか。もちろんひとつには、「ハレの場において食と性を同時に楽しめる」という、地味な日常からの逸脱感があろう。しかし前出の呉智英氏は、さらにその背景に、東洋的な神秘思想の影響もあるのでは、と話す。

「支那に、病気の王が赤ん坊を食べて健康を取り戻すという故事があります。その根底には、人間の肉体を体内に取り込むことで生命力を鼓舞するという思想がある。一方でアジアには、性的なものを生命力の象徴と見る、西欧キリスト教的な世界観とは反対の思想があります。女体盛りには、これらの思想を同時に想起させるところがあるのかもしれない」

『癒しとイヤラシ エロスの文化人類学』(筑摩書房)の著者である京都大学教授の田中雅一氏も、このように語る。

「タブーを超越する行為は、秩序を揺るがす忌避すべき存在であると同時に、崇拝や畏敬の対象にもなり得ます。日常の常識を覆すワカメ酒や女体盛りという行為は、ハレの文化として崇高な意味を持っていたのかもしれません。だからこそ今後も、食の世界の秩序を壊し、これまでにはない領域を切り開くイノベーティブなものにもなり得ますよ。例えば、フルーツパーラーやアイスクリームメーカーが取り入れたりとかね!」

 女体盛りは、秘められつつも創造的な、誇るべき日本の食文化、なのである。

(文/有馬ゆえ)

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