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「傀儡政権って言うな!」日中戦争が生み出した怪しいワールド満載本『ニセチャイナ』

20130617191357920.jpg『ニセチャイナ―中国傀儡政権 満洲・蒙疆・冀東・臨時・維新・南京』(社会評論社)

 “誰得”な奇書を世に問い続ける社会評論社から、またまたとんでもない本が出版された。名付けて『ニセチャイナ―中国傀儡政権 満洲・蒙疆・冀東・臨時・維新・南京』。

 まず、書店に平積みにされていれば、誰もが手に取ってみたくなりそうな表紙のインパクトがものすごい。本文中に登場する人物たちの顔写真をコラージュするという手法、これを使って大成功した本といえば、平岡正明の『西郷隆盛における永久革命 あねさん待ちまちルサンチマン』(新人物往来社、1973年)を思い出す。表紙で遊ぶ本は、編集者の自信の表れ。すなわち、相当濃い内容になっているのは間違いない。

 そして、本書もまたそのセオリーの通りだった。本書で扱われているのは、日中戦争中に中国各地に生まれた、いわゆる「傀儡政権」である。要は、日本軍が占領した地域に誕生した、インチキくさい政府の興亡を追ったものである。蒙古聯合自治政府とか中華民国臨時政府とか、果ては上海市大道政府など、高校の世界史の授業じゃ、まず触れない事項である。漠然と、日本軍が占領地域を支配するために誕生したインチキ政権のように認識されている、これらの政府。ここに関係した人々は、戦後になり日本軍に協力した「漢奸」(対日協力者)として処刑された者も多い。

 だが、そこには一筋縄ではいかない事情があった。なにせ、日本軍に占領されても、住んでいる人々には日々の生活はある。かといって、軍隊では警察活動や行政サービスまでは、手が回らない。そこで、地域の有力者が恭順の意思を示して、行政機関として立ち上げたのが、これらのインチキ政権なのだ。このインチキ政権、日中戦争が泥沼化すると、なんと「我々は中国の正統政権だ!」と言って、日本と本気で和平を結ぼうとしていた。その政権の内部はというと、ものすごくドロドロで、純粋に日中の平和と民衆のためを思う人もいれば、敵国日本の顔をうかがいながら、なにがしか利益を得ようとするもの。密かに重慶政府に渡りをつけている者まで……。そこは、多くのフィクションの題材になってきた戦前の満州、上海に匹敵する、怪しさが満ちていたのである。

 そんな怪しさを心ゆくまで理解して一冊の本にまとめるとは、相当の「奇人」か「数寄者」に違いない。と、取材の依頼をしたら、なんでも地方在住とか。ならば、電話取材をと思ったら、社会評論社の濱崎誉史朗氏から「いや、ぜひ一度、日刊サイゾーに出てみたかったそうなので……」ということで、上京されるタイミングで会うことになった。

 こうして、対面取材とあいなった著者の広中一成氏。「日刊サイゾーに出てみたかった」というのは、別にリップサービスではなく「サイゾー」「ブブカ」「実話ナックルズ」を愛読しているというから、やっぱり「奇人」か「数寄者」の類いであった。

 しかし、全身から「奇人」な雰囲気を醸しているわけではなく、非常に謙虚な人物である。最初、筆者が「サブカル本みたいな表紙なのに、学術書っぽいですね」と言ったところ、「いや、学術書じゃなくて一般書ですよ。だって、論文の形式から外れているので」と、言うのだから。

 そんな広中さんは、愛知大学大学院出身。愛知大学といえば、戦前に上海にあった東亜同文書院の系譜を受け継ぐ、特殊な伝統校(戦前に日本の中国侵略に協力したとされ、戦後、日本で再興する時に名前をそのまま東亜同文書院大学にしようと試みるも、軍国主義復活を警戒したGHQによって阻止された。なので、法的にはつながりはないが、愛知大学の見解では東亜同文書院が母体となっている)。まさに、中国研究のエキスパートというべき人物である。

 広中さんが、これらの怪しげな傀儡政権を研究テーマに選んだのは、修士課程の時。実証を重んじる歴史研究で、なぜか最初から「傀儡政権」という主観的なレッテルが貼られてしまっているという「憤り」が、このテーマに興味を持ったきっかけとのこと。なんでも、汪兆銘政権などは既に研究している人がいるので、ならばまだあまり研究の進んでいないところをと考え、冀東防共自治政府をセレクトしたのだそうだ。

 研究テーマを選ぶだけなら、誰でもできる。驚嘆するのは、そこからの情熱である。

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