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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.244

人間とハエとの恋愛は果たして成就するのか? インドからやって来た“虫愛づる姫”『マッキー』

makkhi02.jpgビンドゥへの恋心が実り、喜びの絶頂に浸かるジャニ(ナーニ)。数時間後の自分に待っている衝撃的な運命はまるで予感できずにいる。

 ところが、わずか数時間後に彼の人生はジ・エンドとなってしまう。「欲しいものは全て手に入れる」という凶悪な建築会社社長スティープ(スティープ)もビンドゥを狙っており、ジャニが目障りだったのだ。スティープと部下たちに拉致されたジャニは哀れ、撲殺死してしまう。主人公が序盤で死ぬという衝撃的な展開。と、ここまでが前振り。死んだジャニは、愛するビンドゥを守るため、一匹のハエへと輪廻転生。小さな体で、極悪人スティープに戦いを挑む。まぁ、身も蓋もなく言ってしまえば、デミ・ムーア主演の大ヒット作『ゴースト/ニューヨークの幻』(90)の昆虫版ですよ。

 ハエが主人公と聞いて、オシャレ女子は「えっー」と引いてしまいがちだが、むしろ女性に勧めたい本作。物語のキーアイテムとなっているのが、ビンドゥが作るマイクロアート。鉛筆の芯を細やかに削って、ハート型にしたり、鎖状にする、とってもミニマムな彫刻なのだ。マイクロアートはよ~く見ないとその魅力に気づかないし、丁寧に扱わないとあっさり壊れてしまう。それって、まぁ、人間の心と同じじゃないですか。寄付してくれた篤志家に対し、精魂込めたマイクロアートをお礼に贈るビンドゥ。ビンドゥはナウシカのように虫と交信できる特殊能力に恵まれているわけではないが、小さきもの、ささやかなものを愛でる繊細な心が持ち味。一匹のハエが妙に自分にまとわり付き、一生懸命に何かを訴えかけていることに気づくわけです。姿が変わってしまった恋人の存在をそのまま受け入れる、ヒロインのオープンマインドさにぐっと来ますね。

 多種多様な言語、文化、宗教観が入り交じったお国柄がインド映画には反映されている。学歴偏重社会をクールに風刺した学園ドラマ『きっと、うまくいく』はインド北部のヒンディー語圏、ラジニカーント主演のベタなギャグ満載の『ロボット』はインド南部のタミル語圏の映画。もともとの『マッキー』はヒンディー語、タミル語に続くインド第3の言語、テルグ語で作られたもの。ちなみにインド南東部のテルグ語圏で作られる映画は、ボンベイで作られるボリウッド作品に対しトリウッド作品と呼ばれている。年間1200本以上もの映画が製作されているインドでは、それぞれの言語圏だけで産業として成り立っている映画界が10ほど存在するそうだ。それってインドのローカル映画でしょ、と侮るなかれ。最新VFXを駆使した『マッキー』は主人公をハエながら可愛げのあるキャラクター造形に仕上げたこともあり、インド全域でスマッシュヒットしたのみならず、米国では同時期に公開されたハリウッド超大作『アメイジング・スパイダーマン』(12)をスクリーンアベレージで上回ってみせた。小さきものがでっかい巨人をひっくり返してみせるという痛快さが『マッキー』の魅力となっている。

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