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ラジオ批評「逆にラジオ」第32回

タモリのドーナツ化した個性を築き上げた「なりすまし力」という才能『われらラジオ世代』

 あるいは『いいとも』司会者という30年以上にわたる「昼の顔」も、長すぎる「なりすまし」だったのかもしれない。そう考えたのは、番組最終日のももクロを迎えた回では、最初の2日間と違い、彼の個性よりも「昼の顔」的な適応力が前面に出ていたからだ。

 終始ももクロのペースで進められたこの日の会話は、タモリの話を心待ちにしていた人間にとっては、正直物足りないものだった。タモリは前日の鶴瓶との会話の中で、ラジオの魅力について、「過剰に盛り込むことはいらない」「自分の外に出すもんじゃなくて、心の中で自問自答してるようなことを乗せたほうが面白い」と語っていた。最終日のにぎやかな放送はそれとは真逆の方向であるように聞こえたが、ここであえて自分を出さず、司会者の役割に徹するその適応力こそが、タモリを密室芸人から「昼の顔」に押し上げたということもできる。そしてその適応力とは、つまり「なりすまし力」のことでもあって、それは間違いなく彼の個性の本質でもある。タモリの中で、個性と適応力は一体化している。

 タモリはこの週、同局の昼ワイド番組『上柳昌彦 ごごばん!』で旧知の上柳アナからインタビューを受け、「やる気のある者は去れ!」という自らの言葉に続けて、こんなことを言っていた。

「やる気のある奴っていうのはね、中心しか見てないんだよね。お笑いってのは、だいたい周辺から面白いものが始まっていく。やる気のある奴はそれを見てない」

 ちなみにその昔、『オールナイトニッポン』でタモリはこう言った。

「思想をまとってくる者ほど愚劣な者はない。一番悪い奴は、最初に思想をまとってやってくる」

 つまりこれは、「思想を持たないという思想」である。自らの中心を持たないという思想である。彼の個性に中心はなく、周辺しか存在しない。その個は巧妙にドーナツ化されている。彼はその中心の穴から周辺を眺め、面白いものを常に探している。そしてドーナツは、穴が開いているからおいしい。その真ん中の穴こそが、タモリなのである。
(文=井上智公<http://arsenal4.blog65.fc2.com/>)

「逆にラジオ」過去記事はこちらから

最終更新:2013/10/30 15:11
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