日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 欲望が絡み合う昼ドラの情念
テレビウォッチャー・てれびのスキマの「テレビ裏ガイド」第37回

「俺とラブしてくれませんか?」醜悪な欲望が絡み合う『天国の恋』の情念

 「そんなのおかしいよ!」と納得がいかない友也に、「あっははははは!」と突然笑い出す婦長。

「急にこんなこと言われて友也ちゃんはびっくりするでしょうけど、でも斎ちゃん、あなたは違うわよね。あなたは女だし、もう大人だからだいたいのことは分かるわよね。私と医院長は愛し合って、その結果あなたたちが生まれたの。それで清水のご両親に預けたの。だから、あちらはただの養父母。本当の両親じゃないの。ただの育ての親なの」

 なおも「そんなのデタラメだ!」と食い下がる友也に婦長は態度を急変、激昂する。友也が何も言えなくなると、またすぐ声色を変えて「一度でいいから母親らしく叱ってみたかった」と泣き出すのだ。

 たったひとつのシーンで、ここまで感情がめまぐるしく変わっていく婦長。情緒不安定というより、そこにあるのは情念だけだ。

 程なくして、育ての母、父に続いて弟の友也までも交通事故で亡くしてしまう斎。そんな暗い過去を背負って成長した斎を、夫の母(丘みつ子)は「“死神”みたいな女」と毛嫌いし、斎の娘の美亜(大出菜々子)に彼女の悪口を吹き込んでいる。「一生ナマ殺しにしてやる」と離婚を許さない夫に対し、斎は別離を決意。やむを得ず娘を置いて、再び医院長の家に舞い戻った。

 そして、あの万引き青年と再会。「抱いて」と身を預けるのだった。

 奇妙奇天烈、阿鼻叫喚。このドラマに出てくる人物は、例外なく欲望と感情むき出しだ。しかも、そのほとんどが醜悪だ。情念と情念がぶつかり合い、また情念が生まれる。そんな醜悪な情念はなぜか中毒性があって、目を背けたいのに目を離すことができない。中島作品は秘められた欲望をあぶり出し、それを過剰に見せつける。それを真っ昼間に見る背徳感とある種の肯定感は、何物にも代えがたい。同ドラマのプロデューサーが「昼ドラは大人のテーマパーク」と言う通り、その情念の波に溺れる快感は、抗うのが難しい昼ドラの耽美な快楽なのだ。

 ちなみにこの作品のタイトルバックの演出は、なぜか石田純一である。
(文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)

「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

最終更新:2019/11/29 18:03
12
ページ上部へ戻る
トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

山崎製パンで特大スキャンダル

今週の注目記事・1「『売上1兆円超』『山崎製パ...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真