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原発作業員が綴る現場のリアルと、二極化する報道へのアンチテーゼ『福島第一原発収束作業日記』

 馬淵氏が明かしたように、汚染水問題は“人災”であり、権力の暴走でもある。それを防げなかったのは、我々が騙され、無知だったからだ。にもかかわらず、馬淵氏がなぜ更迭されたのかという議論も起こさなかった大手メディアに、いまだに身を委ねている。

 こういった上層部の迷走のしわ寄せを受けるのは現場である。二転三転する指示に振り回され、自分たちがベストと考える作業ができない。誤ったトップダウンに、なす術もなく翻弄されてしまう。

 古代ローマの拷問に、身動きを取れなくした人間を暗闇に入れて、額に水を一滴ずつ垂らすというものがある。数日ならばなんてことのないが、これが延々と続くと耐えられなくなってしまうというものだ。本書で福島第一原発の現場作業員の現状を知り、そんなことを思い出した。

「なぜ、国が一括して作業員を雇い、給料の中抜きをする仲介会社が出ないような仕組みを作らないのか」「なぜ、国が中心になって、事態を収束させないのか」「なぜ、時間的に不可能な工程表を出すのか」「なぜ、予算を削減するのか」

 積み重なる「なぜ?」が現場作業員を苦しめる。しかし、当時も今も、そのような現場を伝える大手メディアはほぼ皆無であり、いまだに責任問題すらも論じられていない。芸能人のスキャンダルは追い掛け回すが、当時の東京電力経営陣は糾弾すらされていない。

 著者がTwitterをスタートさせたのは、そんなメディアに対するアンチテーゼでもある。現在も変わらず、原発への報道は二極化している。大手主要メディアは驚くほど好意的に報じ、その逆張りのように、週刊誌やネットメディアやフリーランスは過激に煽る。どちらも扇動的であり、ノイズがある。「正確な情報」を見極めるのが難しい。だからこそ我々は、原発について、自分の頭で考えなければいけない。

 原発の最終処理は何万年単位の時間が必要だといわれている。未来の人たちからすれば、我々が意味を理解できなかったピラミッドやナスカの地上絵を見るような感覚で、原発という危険な代物の最終処理場と接するのだろう。

 このまま、万が一の対応も、最終処理も、未来に託すしか方法がない原発を利用していいのか。それとも、ウルトラC的な技術を生むための研究と並行するのか。原発を甘受してきた日本国民全員が是々非々で論じる必要がある。「どっちでもいい」はやめにしよう。我々が生み出す世論で、メディアや政府を動かさなければいけない。本書はその一端を担うものだ。
(文=石井紘人@FBRJ_JP)

最終更新:2013/11/19 11:30
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