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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.252

“食べることと、ただ殺すことはまるで違う!”レース未勝利馬の数奇な運命を追う『祭の馬』

umanomatsuri03.jpg平将門の時代から続く伝統行事「相馬野馬追」。騎馬武者スタイルとなった地元の人たちによって戦国絵巻が再現される。

 松林監督は、タイとビルマの国境近くで暮らす日本人未帰還兵たちを3年がかりで取材した労作『花と兵隊』(09)でデビューを果たした気骨あるドキュメンタリー作家だ。異国で亡くなった同胞たちのために未帰還兵が建てた慰霊塔の清掃を松林監督は手伝いながら、インパール作戦の撤退時に日本兵同士でのカニバリズムが行なわれた事実を本人の口から聞き出している。本作でもまた、松林監督は人間が生きるということ、自分たちが生きるために他のものを喰らうという命題に向き合うことになる。人間社会は原発や家畜も含め、様々な犠牲の上で成り立っているという事実が浮かび上がる。肥育馬が屠殺され、食肉となっている実情については、本作の公開に合わせて松林監督が執筆したノンフィクション本『馬喰』(河出書房新社)が詳しい。映画『祭の馬』に加え『馬喰』を併読することで、人間と馬との長く深いかかわり合いがより立体的に見えてくるはずだ。

 北海道で元気を取り戻したミラーズクエストたちだが、やがて福島へ帰る日が訪れる。1000年にわたって続く神事「相馬野馬追」に参加するためだ。祭の馬として、彼らは生きることを許されていた。かつては野生馬を捕らえ、神に捧げていた「相馬野馬追」は、南相馬市を代表する伝統行事だ。震災の起きた2011年も規模こそ縮小したが、例年通り7月に行なわれた。地元の人たちにとっては心躍るハレの場だが、祭が終わると共に祭の馬たちはその役割を無事に果たしたことになる。例年通りなら、祭を終えた馬たちは屠殺業者の手に渡ることになる。ここまで生き延びてきたミラーズクエストは一体どうなるのか……。

 人間の都合によって、二転三転するミラーズクエストの運命。彼の大きな瞳には、果たして何が映っているのだろうか?
(文=長野辰次)

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『祭の馬』
監督・撮影・編集/松林要樹 プロデューサー/橋本佳子 製作/3JoMa Film、ドキュメンタリージャパン、東風 
配給/東風 12月14日より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中 
(c)2013記録映画『祭の馬』製作委員会 
<http://matsurinouma.com>

■松林要樹監督の新著『馬喰(ばくろう)』が河出書房新社より発売中。ドキュメンタリー映画『祭の馬』のメイキングエピソードに留まらず、さらに福岡の屠場を取材するなど知られざる馬肉産業の実情を掘り下げている。また、『相馬看花 第一部 奪われた土地の記憶』では被災地に救援物資を届けることで被災所で暮らす人たちと友好関係を結んだ松林監督だが、震災から一定の時間が経過し、復興過程中にある被災地の人間関係に戸惑う様子も盛り込まれている。本著を読んでから『祭の馬』を観ると、草原を駆ける馬たちの躍動感がより目に染みるはずだ。1680円。

最終更新:2013/12/19 21:00
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