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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第118回

アルコ&ピース これが“脱臼型漫才”の最終形!? あの『忍者ネタ』は、なぜ伝説となったのか

51ERfMcXHfL.jpg『博愛』(アニプレックス)

 お笑い界では、一度世に出てからその後もずっと語り継がれる「伝説のネタ」というものがある。今からちょうど1年前の『THE MANZAI 2012』の決勝でアルコ&ピースが演じた「忍者」のネタも、間違いなくその1つに数えられるだろう。その年の大会で優勝したのはハマカーンだったが、視聴者や観客に最も強烈なインパクトを与えたのは、アルコ&ピースのほうだったかもしれない。


 忍者のネタの基本的な構造はシンプルだ。漫才の冒頭、酒井健太が「僕、忍者になって巻物取りに行きたいなと思ってて。平子(祐希)さん、城の門番やってよ」と相方に話を切り出す。一般的な漫才の流れでは、この提案に平子が同意して、2人の漫才内コントが始まるはずの場面だ。

 ところが、それを聞いた平子は軽蔑したような表情を浮かべて「じゃあ、お笑いやめろよ」と切り返す。大方の予想を裏切って、平子は酒井の言葉を文字通りに解釈して、芸人の道を捨てて忍者になろうとする酒井にくどくどと説教を始める。

 要するに、ここで彼らが演じていたのは、あるべき漫才の流れをわざと崩すことで笑いを誘う「脱臼型漫才」だ。漫才を正常な状態から脱臼させることで、新たな形の漫才を生み出すことに成功したのだ。

 このアイデアは、普段あまりお笑いに接していない人には、非常に斬新で画期的に見えるかもしれない。だが、それは必ずしも正しくはない。

 お笑いネタを数多く見てきたお笑い愛好家やネタを作っているプロの立場から見れば、ここでアルコ&ピースがやったこと自体は、決して目新しいことではない。

 漫才の中でコントに入るふりをして入らないとか、コントに入ること自体に異を唱えるというのは、実は多くの人がすぐに思いつくありふれたアイデアにすぎない。むしろ、自分たちの漫才の形をあれこれ模索している若手芸人ならば、一度は通る道だと言ってもいいほどだ。発想そのものは別に珍しくはない。アルコ&ピースの漫才の独創性は、最初のアイデア自体ではなく、それ以外の部分にある。

 第一に、キーワード選びの妙。この漫才では、酒井を責め立てる平子が「忍者になって巻物取りに行く」というフレーズを繰り返すたびに、大きな笑いが生まれる。「忍者」「巻物」という言葉の響きが持つ純粋な面白みが見事に抽出されている。さらに、同じキーワードを何度も繰り返すことで笑いが増幅していく。「忍者」というマジックワードを見つけたことで、この漫才は神がかり的に面白いものになった。

 第二に、構成の巧みさ。この漫才で注目すべき点は、平子が本気で「酒井は忍者になりたがっている」と思っているということだ。彼はあくまでも酒井の立場を尊重しながら、今は芸人として大事な時期だから忍者になるべきではない、と主張する。さらに、「巻物取りに行くことでメシ食えてる忍者なんてほんの一握りだぞ。そんな甘い世界じゃないよ」というとどめの一言が放たれる。忍者という転職先を真剣に検討した上で否定している様子が、何とも言えずおかしい。

 忍者になりたがる酒井に対して、「なれるわけないだろ」「今の時代に忍者なんて存在しないよ」などと簡単に否定してしまったら、このネタはここまでの深みを得られなかっただろう。この漫才の演じ手である平子にとって、忍者とは現実的な職業の1つでなければいけない。平子がそれを受け入れているからこそ、現実とも非現実ともつかない奇妙な会話劇として、この漫才が輝きを放つことになるのだ。

 そしてもちろん、反則スレスレのこの漫才を成立させている最大の要因は、2人の演技力の高さだ。芝居がうまいからこそ、表情や言葉の1つ1つに説得力があり、それが笑いに直結する。コントを専門にしている彼らには、漫才を1つの芝居として演じきる力が備わっているのだ。

 伝説のネタで強烈なインパクトを残した彼らは、そこから快進撃を続けた。2013年4月には『笑っていいとも!』(フジテレビ)のレギュラーに選ばれ、『アルコ&ピースのオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)も始まった。2013年は間違いなく、アルコ&ピースにとって飛躍の1年となった。

 漫才の中で平子が発した「巻物取りに行くことでメシ食えてる忍者なんてほんの一握りだぞ」というせりふは、「テレビやライブに出るだけでメシ食えてる芸人なんてほんの一握りだぞ」という厳しい現実を反映している。現実の香りがする非現実的な「脱臼型漫才」で伝説を作ったアルコ&ピースは、忍者のように見る者を煙に巻いて笑いを取り続けているのだ。
(お笑い評論家・ラリー遠田)

最終更新:2013/12/26 15:00
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