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『映画業界最前線物語 君はこれでも映画をめざすのか』発刊記念インタビュー

映画ジャーナリスト大高宏雄氏が振り返る2013年 第一期を終えたテレビ局映画と若手監督らの台頭

WS000399.jpg『映画業界最前線物語』(愛育社)。各映画会社ラインナップ発表会の様子、人事異動など業界紙ならではの記事から業界の息づかいが伝わってくる。

 「キネマ旬報」で“ファイト・シネクラブ”を連載し、「日本映画プロフェッショナル大賞」を主催するなど独自の視点で映画業界を見つめている映画ジャーナリストの大高宏雄氏。業界紙「文化通信」で2008年4月から12年12月まで、ほぼ毎週にわたって大高氏が連載執筆したコラム「映画業界最前線」が愛育社より『映画業界最前線物語 君はこれでも映画をめざすのか』として出版された。同書に登場するのは人気俳優や有名監督たちではなく、映画宣伝マンや興行関係者といった300人近い映画業界の人々だ。彼らの息づかい、鼻息、嘆息がリアルに感じられ、映画業界の現状がひしひしと伝わってくる内容となっている。大高氏は映画業界のこの5年間の変動をどのように感じているのか? 宮崎駿監督の『風立ちぬ』以外はメガヒットが生まれなかった2013年の映画興行と共に振り返ってもらった。

──一般の人の目に触れることのない業界紙で連載されたコラムを書籍化した『映画業界最前線』。まとめて読むことで、映画業界がこの5年間で大きく変わったことが感じられます。

大高 この5年間での変動ぶりは本当に激しかったと思います。さらに、この1年でますます進んでいる状況です。もはや1年前にどの作品が当たったかなんて記憶の彼方になっています。ちなみに2012年の最大のヒット作は『BRAVE HEARTS 海猿』です(笑)。この数年間、解散した配給会社や宣伝会社も多かったけれど、大手の映画会社でも人事・組織改革がずいぶん進んでいます。『映画業界最前線物語』を通して読んでもらうことで、業界の激変ぶりが再認識できるはずです。

──2009年4月6日付けの「初日の光景激変、若い映画マンはこの現状をどう見る」は印象的です。映画の公開初日の風景の変化が映画業界の変化を象徴しているようですね。

大高 私はそう感じています。映画の公開初日といえば、かつては有楽町の日劇やスカラ座といったメイン館に映画会社のトップから営業、宣伝担当者、興行関係者らがみんな集まって、観客の入りを見届けていました。それは単に初日の観客動員数を確かめるという意味だけではなく、自分たちが関わってきた作品を観客へ送り出すことを確認する儀式の場でもあったんです。自分たちが配給宣伝した作品がちゃんとお客さんのもとへ届いているのかを自分たちの目で確かめる意味合いがありました。観客で一杯だったら喜び合い、客の入りが悪かったら自分たちの配給宣伝方法に問題があったのではないかと受け止め、そこから様々な対処法を練るわけです。今は初日に顔を出す関係者は減りましたし、来なくてもいいと言い放つ興行者も出てきました。私がこの仕事を始めた1980年代に比べ、映画業界の人間関係がとても希薄になっているように感じますね。

──映画の初日は、関係者が集まって情報交換する場でもあったそうですね。

大高 他の配給会社の作品の予告編の上映まで観て、本編が始まるとみんなで近くの喫茶店やレストランなどに移動して、そこでいろんなことを話し合ったものです。まだ若手の記者だった私もその中に加わって勉強させてもらいました。かつての映画宣伝マンや営業マンは映画に熱い意識とプロ的な考え方を持っている人が多く、とにかく面白かったですね。普段はなかなか話し掛けられない映画会社のトップにも、そういう場では気軽に話を聞くことができたんです。公開初日というのはどれだけ観客を動員できたかということ以上に、映画業界の人間にとっては特別な日でもあったわけです。

──都市型シネコンが主流となって興行形態が変わり、メイン館の意義も薄らいでいます。

大高 かつては日劇やスカラ座が満席だった、7割の入りだった……というメイン館のデータが全国興行の目安になっていました。今は新宿ピカデリーが日本最大の集客数を誇るシネコンなのですが、新宿ピカデリーをはじめ、TOHOシネマズ日劇、TOHOシネマズ渋谷といった都市型シネコンの集客が良くても地方の劇場はガラガラということがザラなんです。メイン館を覗くだけでは、その作品がお客に届いているのかどうか見極めることが非常に難しくなっている。話は全く変わりますが、最近感じることがあるんですよ。多くの人に映画に関心を持ってもらおうと私はここ数年ツイッターを通して興行情報を発信してきましたが、最近はあまりに興行面ばかり重視する風潮が広まっている気がしてならない。2013年でいえば、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』や松本人志監督の『R100』は興収結果だけに異様に話題が集中してしまった。作品を観ないで、数字だけで作品の善し悪しを判断するのはどうかと思います。映画の興収はもちろん重要ですが、作品のクオリティーは興収結果によって貶められるものではありません。私は松本人志の才能を買っており、『R100』を楽しく観ることができました。指摘すべきは、その届け方なんですね。

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