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「1秒でも歌でイリュージョンが生まれれば成功だ」 鬼才・豊田道倫が語るポップ論

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――このアルバムには、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやルー・リードのソロのような、冷めたロックの手触りも感じます。

豊田:自分のことに関してはあんまりわからないですね。ただガッとやっただけ、という感じで、「よくレコードになったな」とは思いますけれど(笑)。あとはやっぱり、Abbey Roadでマスタリングしたかった、というのは大きいですね。今回は自分でプロデュースしていますけれど「Abbey Roadの人はこれを聴いてどう思うんだろう?」というのは考えたかな。「今回こそは突き返されるんじゃないか」と思って(笑)。

――突き返されることも期待したり?

豊田:ちょっとね(笑)。そういうものをAbbey Roadの人がロックレコードにしてくれて感激しました。当初はもっと荒っぽくて殺伐としたもののつもりだったけど、思ったよりサウンド的にグラマーで温かいものになった。ギターの音などに関してはAbbey Roadの力は大きかったかな。

――歌詞の面ではどうですか。豊田さんには詩人の才気がありすぎて、どうしても詩情が溢れてしまう。自分でそこを壊すのは難しくありませんか。

豊田:今回はあまり言葉を詰めていないですね。先行してYou Tubeにアップしていた「Heavenly Drive」について、松本亀吉さんがレビューを書いてくれました。誰も歌詞を褒めてくれなかったけれど、松本さんは歌詞がいいと。「Heavenly Drive」というフレーズ以外にほとんど歌詞はないのですが、自分にしては珍しく、書くのに1ヶ月掛かったので、「そういう人がいるんだな」と思いました。

――〈ガセネタを信じたあいつは 明け方に車で消えた〉というフレーズですね。豊田さんはツイッターなどでは社会の状況などについて発言していますが、歌詞の中ではあまりありませんね?

豊田:自分が何回も歌う歌、となるとなかなかできなくて。歌っていて好きな言葉と肉声で発する言葉は、どうしても違う。つまんない言葉だけど、歌っていると気持ちよくなる言葉もあります。

――聴き手として聴いていて好きな歌詞と、ご自分が作る歌詞も違いますか。

豊田:違うと思います。自分の身体性を通さないと、歌詞は作れないところはあります。

――ここ5-6年の音楽界では歌詞の重要性についてよく語られていますが、最近のその流れを豊田さんはどう感じていますか?

豊田:僕はあまり流行りの日本の音楽を聴かないけど、メール文化や3.11もあって、言葉による”いたわり”の気持ちが求められていることは感じます。本屋に行っても、「自分を救う」といった内容のものは多い。それとは違う、面白い異物としての歌詞や言葉の表現が今はあまり脚光を浴びていないのかもしれない。

――今作は「言葉のアルバム」でもあり、随所に言葉の異物感が出ていると感じます。

豊田:自分では何を狙って書いているのかよくわからない部分はあるけど、僕は「瞬間芸」がしたいんですよ。一瞬の歌で、何かを誤魔化す、夢を見るのがポップスやロックだと思う。ちょっとしたフェイクのような、すごく小さな道具でそれをできる可能性がある。それは自分を知ってほしい、わかってほしい、という気持ちとは違う。1秒でも歌でイリュージョンが生まれれば成功だと思っている。

――確かに、豊田さんの歌は私小説的なイメージで捉えられることもあるけど、いわゆる心情吐露的な表現とも違います。

豊田:そのちょっとしたこと、一瞬の歌が難しくて。なかなか狙ってできることではないので、いつも悩んでる(笑)。

――今回の作品には、一瞬の夢を見せるようなイリュージョンが確かにあると思います。というわけで、インタビュ-の後編では、リスナーとしても確かな耳を持つ豊田さんに5枚のアルバムを挙げてもらい、それぞれのイリュージョンについて語ってもらいます。
(取材=神谷弘一/撮影=山本光恵)

■リリース情報

『FUCKIN’ GREAT VIEW』

価格:¥ 2,415 [税抜価格 ¥ 2,300]
発売日:2014年 1月15日(水)

01. ひとり
02. 夜のコーヒー
03. オレンジ・ナイト
04. 26歳
05. G
06. 玄米木苺フレークシェイク
07. ずっとビーチのはしっこで
08. ふたり
09. Heavenly Drive
10. 街の暮らし

最終更新:2014/01/15 09:00
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