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「高速化するJPOP」をどう受け止めるか 音楽ジャーナリスト3人が徹底討論

柴:ただまあ、それは当然の成り行きですよね。たとえばシンセサイザーやリズムマシンが登場して、テクノが誕生して、それは大きなムーブメントになったけれど、別に生音主体の音楽シーンの価値観をひっくり返したかって言うと、そうではないわけで。そういう意味では、ボーカロイドっていうのも、僕は今はまだ一つのタグでしかないと思っています。

さやわか:まだ「その楽器を使った音楽でしかない」ってことですよね。ただ、今の宇野さんの意見に補足すると、実は最初に初音ミクを使った世代の人たちのほうが生音に行きがちなんですよね。初期にやっていた人っていうのは最初バンドで音楽をやっていたんだけど、なかなか上手く行かなくて、DTMみたいなものにいきついた果てで初音ミクを使っている場合が多い。だからやがて才能が認められて、人気が出て、自由にお金や人を使えるようになったら、自然な形でバンドスタイルに戻っていく。ところがもうちょっと下の世代になると「初音ミクこそがいい」っていう雰囲気がだんだん生まれてくる。つまりさっきのBPM高速化の話なんかもそうだけど、ニコ動や初音ミクも十把一絡げにジャンルとして捉えられるものではなく、既に世代の違いが生まれ始めているんですね。言い換えるとシーンとしてはここからなのかなって感じがします。

柴:これからの世代という意味ですごく面白かったのは、横浜アリーナの『マジカルミライ』っていう初音ミクのイベント行った時のことですね。U-18の公演だったんですけど、小学生や中学生の女子が本当に沢山いる。親子連れで来てるんです。それがライヴの初体験になっている。じん(自然の敵P)のライヴでも、本当に10代ばっかりで。

さやわか:中学生がロックで衝撃を受けるみたいなことが、ボカロシーンで起き始めているっていうことですよね。そういうエピソードがあるというのは、今後が期待できそうな感じがしますよね。

宇野:でも、そういう新しい文化ってさ、ヒップホップもパンクもそうだったけど、最初はとにかくかっこよかったじゃない。そういう吸引力がないよね。かっこいいか悪いかっていうのは、音楽にとってものすごく重要な価値基準だと思うんだよね。もうね、今日は旧世代を代表してのポジショントークみたいになってきてるけど(笑)、本音でそう思うんだよ。

柴:じんさんの音楽に関していうと、これを37歳の自分が冷静に聴くとノレない部分もあるんですけど、でも、自分の心の中にいる「かつての14歳の自分」が聴くと、すごくノレるんです。熱くなる。

さやわか:たとえば自分が14歳の時に聴いていて、マジかっこいいと思ってた音楽を、今聴いたらどう思うんですか?

柴:今でも泣きそうになることはありますね。僕の14歳の時はニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」がリアルタイムで。今聴いても盛り上がる。逆に、セックス・ピストルズが全然ダメで。パンクだって言うから攻撃的なイメージを持って聴いてみたら、全然音が薄かった。たぶんメタルで育ってきたせいだと思いますね。僕の原点は高校生の頃に友達と作ってたメタル同人誌で。『鋼鉄春秋』っていうタイトルだったんですけど……。

さやわか・宇野:(爆笑)

柴:15歳のときにニルヴァーナのレビューで「キッズたちが盛り上がっているのは何故か」とか書いてました。「キッズはお前じゃねえか!」って話ですが(笑)。

さやわか:そう考えると正直、僕もわからないところがあるし、柴さんですら速ければいいってもんじゃないって言っているけれど、もしかしたら今の「キッズたち」は、ボカロ曲を聴いて単純に「速くてマジかっこいい」と思っているかもしれないですよね。つまり大人にはわからない、ある種の断絶のある文化になっている。僕がさっき今後が期待できると言ったのはそこなんですよ。あらゆるシーンがフラット化していると言われながらも、いま「ユースカルチャー」という言葉が新しい形で復古しているのであれば、それは面白いことだし、ポジティブに捉えられることだと思っています。

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左から宇野氏、柴氏、さやわか氏。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

■さやわか
ライター、物語評論家。『クイック・ジャパン』『ユリイカ』などで執筆。『朝日新聞』『ゲームラボ』などで連載中。単著に『僕たちのゲーム史』『AKB商法とは何だったのか』がある。Twitter

最終更新:2014/01/04 11:21
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