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ノンフィクション『誘蛾灯』上梓企画

ジャーナリスト青木理が語る鳥取連続不審死事件──毒婦と地方格差と劣化する刑事“地方”司法の問題点

青木 いま申し上げた通り、公判そのものも極めて不十分だし、何よりも鳥取県警の捜査がひどくずさんでした。今回の事件は、立件された2件のほかに美由紀の周辺で2004年から2009年までの間に読売新聞の記者や警備員、鳥取県警の刑事が不審死しています。真相は不明だけれど、彼らの死因や周辺をもう少しきちんと調べていれば、もっと早く事件化され、これほど多くの人が亡くならなくて済んだかもしれない。ところがロクな検視もせずに2件は自殺、もう1件は海水浴中の事故として処理してしまった。今となってみれば、すべてが藪の中ですけれどね。

 ほかにも問題はある。今回立件された2つの事件の被害者のうち、日本海沿岸で溺死体で発見された方がいます。判明している計6人の不審死のうちでは4番目の死者ですが、彼が死ぬしばらく前に家から不審火が出て、彼は警察に対し「殺されそうになったかもしれない」と話したそうなんです。そして実際に遺体で発見された。慌てた県警が遺体を解剖したところ睡眠導入剤が検出され、美由紀との交際や金銭的な関係が浮上し、ようやく本格捜査を始めたんです。もっと迅速に対応していれば、彼は死ななくて済んだかもしれない。

 そこから県警は、美由紀と安西を行動確認監視対象に置きます。この間にも2人は取り込み詐欺のような行為を繰り返していたのに、それを見逃した上、2つ目の殺人まで許してしまったんです。この事件が発生したとされる当日も県警は美由紀と安西を行動確認していたはずなのに、犯行時間帯だけは美由紀を尾行していなかったと警察・検察は裁判で言った。にわかには信じがたいし、もし事実だとすれば大失態でしょう。きちんと尾行していれば、2つ目の殺人は防げたんですから。

──美由紀の弁護士は国選です。

青木 ええ。1審と2審は別々の弁護団で、いずれも国選ですが、1審の弁護人はヒドかった。弁護方針もブレブレで、メディア取材も拒否。失礼だけど、死刑という究極の刑罰がかかる重大事件の弁護団としては、明らかに力不足でした。

──裁判官はいかがでしょうか?

青木 1審・鳥取地裁の裁判官は比較まっとうでしたが、結局は検察の脆弱な立証を丸呑みして死刑判決を下していますからね。裁判員だって黙秘権の意味をろくに理解していない状態で、これは明らかに裁判長の責任でしょう。鳥取である人に聞いた話ですが、警察にせよ、弁護士にせよ、刑事司法に関わる人々の平均レベルが低いのも地方都市の現実だと。そうなのかもしれません。

──昨年の12月10日から控訴審が始まり、美由紀は1審での黙秘から一転、口を開きましたが、これはどう考えますか?

青木 美由紀は1審で黙秘権を行使して口を閉ざしましたが、美由紀の弁護団は起訴事実を否認するにとどまらず、「安西こそが真犯人だ」とまで主張していました。驚きの主張でしたが、2審で口を開いた美由紀の証言は、基本的にそれをなぞるものだったといえます。明確に安西が犯人だと言ったわけではないけれど、一緒に暮らしていた安西の事件当時の不審な行動を数々指摘し、誰が聞いても「安西が犯人だ」という内容でした。しかも極めて具体的で詳細。ただ、それはほとんどウソだと思います。

 さりとて、1審で安西が証言したことにも明らかにウソが含まれている。安西によれば、美由紀から三つ子を妊娠したと言われて信じていた上、出産予定日を過ぎてから薬物で子どもを小さくして堕胎したと聞かされ、これも警察に教えられるまですべて信じていたと訴えました。もともと安西はやり手の自動車セールスマンで、40代の半ばを過ぎた妻子ある中年男ですよ。そんな安西の主張を信じろというほうが無理です。つまり美由紀も安西もウソをついていて、裁判は真実をほとんど明らかにできていない。

──控訴審以降の裁判の見通しについては、どうお考えでしょうか?

青木 死刑判決が覆る可能性は極めて低いでしょう。そもそも日本の刑事司法は、検察が起訴した際の有罪率が99%を超え、1審でのわずかな無罪判決すら2審でひっくり返されてしまうことが多い。広島高裁松江支部で始まった控訴審は、裁判長が美由紀に証言の時間を与えましたが、1審で黙秘した被告が2審で証言すると言っているのにしゃべらせないわけにはいかないという判断でしょう。死刑という究極の刑罰がかかった裁判なのに、審理が尽くされていないじゃないかと批判されかねませんからね。従って美由紀の証言を受け入れる可能性は薄いと思います。

 ただ、今回の公判は、日本の刑事司法の歪みを照らし出している。先ほども申し上げましたが、今回の事件では、警察・検察側も脆弱な状況証拠しか出せていません。しかも、それを支えているのは、これも怪しげな安西の証言。それなのに死刑判決です。「このままで本当にいいのか?」という私の思いは今も変わりません。
(取材・構成=本多カツヒロ)

●あおき・おさむ
1966年、長野県生まれ。ジャーナリスト、ノンフィクションライター。共同通信社警視庁公安担当、ソウル特派員などを務めた後、2006年からフリーに。主な著作に『日本の公安警察』(講談社現代新書)、『絞首刑』(講談社文庫)、『トラオ 徳田虎雄 不随の病院王』(小学館文庫)、『国策捜査』(角川文庫)など。最新作が『誘蛾灯 鳥取連続不審死事件』(講談社)。朝の情報番組『モーニングバード!』(テレビ朝日系)のコメンテーターなど、テレビ、ラジオでも活躍中。

最終更新:2014/05/15 12:40
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