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生き残った帰還兵と家族の“その後”を追った『帰還兵はなぜ自殺するのか』

51AJ50YzplL.jpg『帰還兵はなぜ自殺するのか』(亜紀書房)

 イラク・アフガン戦争で、生還した兵士のうち、精神的な傷害を負ったアメリカ人兵士は約50万人。毎年250名以上が自殺している。「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」、外部から強烈な衝撃を与えられた脳が頭蓋の内側とぶつかり、心理的な障害を起こす「外傷性脳損傷(TBI)」、うつ、悪夢、人格変化、自殺願望……

 生き残った兵士たちは、帰還後、なぜ苦しむのか?

 『帰還兵はなぜ自殺するのか』(亜紀書房)は、イラク・アフガン戦争がきっかけで、重い精神的ストレスを追ったアメリカ人兵士5人とその家族の苦悩の日々を追った、2013年にアメリカで出版されたノンフィクションである。著者はワシントン・ポスト紙で23年間記者として勤めた、アメリカ人ジャーナリスト、デイヴィッド・フィンケル氏。イラク戦争で従軍する兵士たちを取材するために新聞社を退社し、1年間にわたって兵士と生活を共にし、その体験を『The Good Soldiers』として上梓した。ところが、帰還した兵士たちから「日常にすんなり戻れない」「精神的なダメージを受けて苦しんでいる」などの相談を受け、「私の仕事はまだ半分しか終わっていない」と、兵士はもちろん、妻子や身内に至るまで取材を行い、「戦争の後」をテーマに、自分の意見を挟まず、徹底的に登場人物たちの姿だけを追っている。

 アメリカ領サモア出身のトーソロ・アイアティ(26歳)。彼はイラク戦争中、爆撃を受けて帰還し、重いPTSDと診断された。今も軍隊に所属しながら、復員軍人病院でPTSD快復プログラムを受けている。妻のテラサいわく、かつてのアイアティは「いつも陽気で愉しい人だった。何もかも冗談にして、笑い飛ばすような人だった」という。

 しかし、今は眠るために睡眠薬を、起きている間は眠らないようにするための薬を、さらに、鎮痛剤、抗うつ剤を飲み、皮膚から酒のにおいが染み出すほどのウォッカを摂取し、「自殺したい」と言うようになった。彼は、爆撃を受けた“あの日”以来、悪夢を見続けている。

 イラクでの戦闘中、ドッカーンという大きな音がして、爆弾の衝撃で乗っていたハンヴィー(高機動多用途装輪車両)が宙に吹っ飛んだ。ドアを開き、逃げ出そうとして、脚が折れていることに気づき、その場に倒れた。脚を引きずりながら、再びハンヴィーまで引き返し、出血がひどくてうめいている兵士を引きずり出した。ハンヴィーが火を噴き、あっという間に炎に包まれた。再び地面に倒れ、みんなが車から出られたのを見てほっとした。そのとき、ハーレルソンの名を呼ぶ誰かの声が聞こえた。「それで俺は、ああ、クソ! ハーレルソン。あいつのことを忘れてた」そう叫び、見渡すと、見えたのは炎と、彼がいた運転席のところにある人の輪郭だった。ハーレルソンは、シートベルトに固定されたまま焼け死んだのだ。

「どうして俺を助けてくれなかったんだ?」
 
 彼は、助けることができなかったハーレルソンの夢を見続けている。

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