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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.267

札幌で大ヒット! お金で買えない幸せの在り方『KAZUYA 世界一売れないミュージシャン』

kazuya03.jpg実家に帰省中のKAZUYA。50歳を過ぎて定職に就くことができずにいることを親に心配されているが、今さら生き方は変えられない。

 この映画を撮った田村監督がどんな動機からカメラを回し始めたのか気になり、電話取材を申し込んだ。電話の向こうで田村監督は以下のように答えるのだった。

「20代の頃は美容師の修業に明け暮れ、30代はお店の経営に情熱を注いだんです。その甲斐あって、自分のお店を支店も含めて持つことができ、スープカレー屋も経営でき、趣味でドーベルマン犬のブリーダーもやってます。ところが、40歳のときに離婚を経験するなど、40代になって非常にしんどい状況に陥ってしまった。仕事もあるし、お金も稼げるようになった。でも、自分にとって幸せって何だろうと悩んだんです。そんなときに頭に思い浮かんだのが、PHOOL時代からの大ファンだったKAZUYAさん。仕事もなく、お金もないのに、すごく生き生きとしている。もうひとり、いつも楽しそうにしている人物の顔が浮かんだのが、映画監督の中川究矢さん。園子温監督の助監督をやってた人で、彼の『ドッグショー』(07)というドキュメンタリー映画に僕が出演したことで交流するようになったんです。映画監督ってお金がないと大変なはず。でも中川監督もまたすごく楽しそうに生きている。幸せとは何か、人生における成功とは何かを確かめてみたくなったんです(笑)。それで中川監督にアシストしてもらいながら、大好きなKAZUYAさんのドキュメンタリー映画を撮ることにしたんです」

 約200万円掛かった映画製作費のうち「半分はKAZUYAさんの呑み代に消えてしまった」とこぼす田村監督だが、その口調はどこか楽しげだ。お金では買うことのできない幸せの在り方は評判を呼び、札幌のミニシアター・蠍座は連日満席となり、異例となるアンコール上映が組まれたほど。現在は世界各国の映画祭からも声が掛かっている状況である。そして、札幌でのヒットに気をよくしたKAZUYAは、新宿K’s cinemaでの公開にあたり、人生初となる上京をついに決意。飛行機が怖いので、田村監督に伴われてフェリーとバスを乗り継いで、東京まで舞台あいさつにやってくるそうだ。

 一本のドキュメンタリーを撮ったことで、ひとりのミュージシャンの人生が大きく変わったわけではない。でも、一本のドキュメンタリーがきっかけで、ひとりの男の生き方がほんの少しだけ広がりをみせた。40歳をすぎて監督デビューを果たした田村監督も、ビジネスでの成功とは違った喜びを噛み締めているようだ。
(文=長野辰次)

kazuya04.jpg
『KAZUYA 世界一売れないミュージシャン』
監督・編集/田村紘三 プロデューサー/貝澤昭宏 編集・アソシエイトプロデューサー/中川究矢 ナレーション/サエキけんぞう 出演/KAZUYA、SHIBA、ワタナベマモル、梶原信幸、あさくらせいら 4月12日(土)~25日(金)新宿K’s cinemaにてレイトショー上映(イベントを多数予定)
(c)KAZUYA映画実行委員会2012 
<http://www.kazuya2011.com>

最終更新:2014/04/10 21:00
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