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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.268

池脇千鶴が“ジョゼ虎”以来となる本格覚醒だ! 10年に一度の勝負作『そこのみにて光輝く』

hikarikagayaku03.jpg腐れ縁の男・中島役の高橋和也が名演技を見せる。ゲスの極みを演じることで、池脇の存在感をいっそう際立たせている。

 ホームドラマを得意とする呉監督らしさが出ているのは、達夫、千夏、拓児の3人が地元の定食屋(津軽屋食堂)で食事をかき込むなんでもないシーン。千夏が抱え込んでいるものすべてを一緒に背負うことを覚悟した達夫は、お調子ものの拓児に促され、ビールを注いだ千夏のコップと自分のコップを合わせ、初めて乾杯をする。新しい家族が誕生した瞬間だ。純白のドレスも結婚指輪もそこにはないが、千夏と達夫にとってはまごうことなき祝杯の儀式の場である。それまでずっと日陰者の人生を歩んできた2人だが、この祝杯を挙げた瞬間から、幸せになることを約束された小さな新しい家族として旅立ちを迎える。弟の拓児が立会人だ。映画史上、こんなにも質素で美しい結婚式シーンは見たことがない。

 暗い夜道をひとりで歩き続けてきた達夫にとって、明るい太陽となる千夏。千夏という女性は、特別な女なのだろうか。答えはYESでありNOでもある。多分、千夏という女は達夫にとって特別な存在であるのと同時に、あらゆる女性に通じる普遍性を持った女性像でもある。『そこのみ──』に登場する男たちは、達夫も、弟の拓児も、寝たきりの父親も、そして千夏とは長年情夫の関係にある“地回り”の男・中島も含め、すべての男たちの殺生権は千夏が握っている。男たちが生きるか死ぬかは、彼女次第なのだ。千夏はエロスの化身であると同時にタナトス神でもある。そしてそんな千夏に渦巻く業は、すべての女性が抱えている核心部分でもある。池脇千鶴という女優は、女の本性を裏表なくあけすけに具象化して見せた。彼女にはこれから一体、何度驚かせられるのだろうか。
(文=長野辰次)

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『そこのみにて光輝く』
原作/佐藤泰志 脚本/高田亮 音楽/田中拓人 撮影/近藤龍人 監督/呉美保 出演/綾野剛、池脇千鶴、菅田将暉、高橋和也、火野正平、伊佐山ひろ子、田村泰二郎 配給/東京テアトル R15 4月19日(土)よりテアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国ロードショー 
(c)2014佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会
<http://hikarikagayaku.jp>

最終更新:2014/04/17 23:31
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