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小室哲哉はJPOPのリズムをどう変えたか 現役ミュージシャンが「TKサウンド」を分析

TRF楽曲に見る、足し算のアッパーチューン

 「低音楽器はシンプルに刻み、高音楽器がフックを入れまくる」という小室さんのアプローチを『Self Control』を題材に分析しました。そしてこの論理は、トラックも多く、より派手な印象のプロデュース楽曲にも応用できます。

 例えばダンスミュージック的なサウンド構造がもっとも生かされているのはTRFの楽曲でしょう。『CRAZY GONNA CRAZY』『BOY MEETS GIRL』『EZ DO DANCE』『survival dAnce』などのヒット曲には、「キック4つ打ち」「ベースは動かずに細かい刻み」「シンセフレーズはリズミカル」という『Self Control』と同じようなサウンド構造でリズムの基本構造が作られています。では、それ以外のプラスアルファのトラックがどのような意味を持っているでしょうか。

 『Self Control』の「その他のトラック」は、メロディ面ではもちろんそれぞれ不可欠なものですが、リズム的にはシンセサイザーのテーマフレーズが提示しているリズムを見事に踏襲していました。TRFの楽曲ではリズム的にも重要な役割を果たしている「その他のトラック」がいくつかあります。それらのトラックの役割を大雑把に言えば「埋めること」です。

 まず、音符の長さが長いものと短いものに二極化される場合が多いです。多くの色を混ぜるとどの色でもなくなっていきますが、リズムもそれと同じで、細かい16分音符まで隈なくリズムを埋めていくと、それだけひとつひとつのアクセントが相対的に目立たなくなります。例えば『CRAZY GONNA CRAZY』では高音のシンセピアノリフとブラスフレーズが印象的ですが、どちらもリズムパターンとしては同じ位置にアクセントがあります。ハイハットは裏打ち(「ン チッ ン チッ ン チッ ン チッ」という裏拍の4つ打ち)です。普通に考えると、拍の裏に強いアクセントがあることになります。さらに、シンセサイザーが歌のないところで16分音符3つごとのアルペジオを奏でています。いくらキックが4つ打ちで、高音楽器はリズムへの影響が少ないとはいえ、流石にこれらのトラックを真面目に考えると「ゴチャゴチャ」としか言い様がないはずなのです。しかしそれでもこの曲のトラックが前に進む力を失わないのは、別のシンセサイザーがアクセントのない16分音符を刻んでいるからです。さらに言えばこのシンセサイザーは、「その他のトラック」の中ではもっとも音が低く、中低音域です。このトラックの「埋める役割」によって、相対的に他のアクセントやフックの強さが低下し、ゴチャゴチャすることなく曲のスピード感を上げています。基本的な考え方はベースの8分音符と同じで、これによってスピード感がさらに増し、いよいよ高音楽器が「何でもできる」ようになる、ということです。

 同じようなことが長い音符でも言えます。小室さんは特にゆったりとした歌ものなどで、ギターやピアノのように強いアタック感を持たない、シンセサイザーやストリングスの長い音符で埋めるトラックを、よく使います。そこでは「ノリさえ良ければいい、というわけにはいかない」「歌を前に出すために、あまり細かい音符で埋めたくはない」という、アッパーなダンスチューンと違う条件があるので、ボーカルをでしゃばらずに補佐しつつ、リズム的な空白を埋めて曲に流れを与える、という役割の長い音符が効果的なのです。

 『Self Controll』で、「小室さんは引き算が上手」と書きましたが、TRFの楽曲などからは「引き算が上手な人は足し算も上手」ということがわかります。

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