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「クラブと風営法」問題のこれから 音楽ライター磯部涼と弁護士齋藤貴弘が語り合う(後編)

【リアルサウンドより】

 クラブと風営法の問題が節目を迎えようとしている。去る4月25日、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(通称、風営法)違反の罪に問われていた大阪市北区のクラブ「NOON」の元経営者・金光正年被告に大阪地方裁判所で無罪が言い渡された。同店が摘発されたのは、2012年4月4日。2010年末から大阪市中央区・アメリカ村で始まったクラブ一斉摘発の流れの中での逮捕だったが、唯一、検察と争う姿勢を見せていたため、クラブと風営法の問題の今後に影響を与え得る裁判として注目されていた。ただし、判決はあくまでも摘発当日に「NOON」で行われていたイベントが、風営法の規定する3号営業には当てはまらないとするもの(*1)で、すべてのクラブに適合するわけではない。クラブと風営法の問題に折り合いを付けるには、やはり、法改正が必須なのだ。

 そして、6月22日までの今国会中には、超党派の国会議員からなる、風営法のダンス営業規制について検討するための会合「ダンス文化推進議員連盟」(以下、ダンス議連)が、風営法改正案を提出する見込みである。しかし、この動きには紆余曲折があって、風営法を所管する警察庁が改正に真っ向から反対していたため、ダンス議連はクラブ業界に、警察の懸念が解消されるよう地域との関係の構築や自主規制を進めて欲しいと要請。それを受けて、「Club and Club Culture Conference~クラブとクラブカルチャーを守る会」(以下、C4)(*2)や「ブリッジ」(*3)といったクラブ・アーティストの団体、「日本ナイトクラブ協会」(*4)や「西日本クラブ協会」(*5)といった業界団体が状況改善をすべく、奔走している。

 前編【「クラブと風営法」問題の現状と課題とは 音楽ライター磯部涼が弁護士に訊く】では、「ダンス議連」に対するロビーイングの中核を担ってきた齋藤貴弘弁護士に、これまでの動きについて振り返ってもらった。後編となる今回の記事では、彼と共に“これから”について考えたいと思う。
 
 齋藤弁護士は風営法改正運動をいま一度“オープン”にするべきだと主張する。前編で書いた通り、もともとクラブ・カルチャー発の風営法改正運動は、「Let’s Dance」(*6)による請願署名募集という“オープン”な形で始まった。しかし、ある時期からロビーイングのような“クローズ”な形に切り替わる。それは、問題の当事者であるクラブ事業者が現行の風営法下では、法的なグレーゾーンで営業せざるを得ないため、“オープン”な場に出て来づらいことを考慮した結果の選択だった。そして、ダンス議連は議員会館内で、クラブ事業者団体、DJ、アーティスト、社交ダンスやサルサなどのダンス事業者団体、地元商店街、デベロッパーなどの関連企業、警察庁、経産省、文科省といった様々な関係者からのヒアリングを行ってきた。ただ、齋藤弁護士は、風営法改正のレールが敷かれた今こそ、それが間違った方向に進まないよう、ユーザーも含めた“オープン”な議論を改めて始めるべきだと言うのだ。

 他方、議論が“クローズ”になっていた間に、運動に関わっている人と関わっていない人との間でリテラシーの差が開いてしまったようにも思える。例えば今年1月、20代前半の若いロック・バンド:踊ってばかりの国が「踊ってはいけない国」という楽曲を発表して話題になったが、歌詞を見てみると、「踊ってはいけない/そんな法律があるよ/ここには/クソな国がほらあるよ」などと、いかにも“カウンター・カルチャー”的な主張が謳われている。しかし、現在の風営法改正論議においては、現行の風営法は時代にそぐわないとして見直しが求められているのと同時に、クラブ業界も今までのやり方を反省し、改善することが求められているのだ。つまり、問題は音楽文化に見られがちな素朴な反権力を気取っているだけでは解決しない。地道なネゴシエーションと自主規制を進めることこそが重要なのである。とはいえ、若者にとってみたら、「マナーよく遊ぼう!」よりも、「FUCK風営法!」のほうが格好よく思えてしまうのは仕方がないことなのかもしれない。齋藤弁護士もそれに関しては悩んでいるという。

「難しいところです。ツイッターなどでも、わかりやすいスローガンを掲げていた頃のほうが勢いに任せて拡散していくパワーがあったように思います。しかし今は、例えば『規制改革会議でこんな話をしました』といった、ダンス議連と警察庁とクラブ業界の間を取ったようなことをツイートしてもあまり拡散してもらえない。ただ、それは風営法に関してだけではなくて、そもそも、日本国民が持っている意識の問題なのかな、とせつなく感じてしまうこともあります。すぐ、『おまえ、右(翼)なの? 左(翼)なの?』といったラベリングの話になったりだとか、煽るような論調にしか乗らなかったりとか、熟議ができないケースもしばしば見受けられます」

 しかし、踊ってばかりの国の「踊ってはいけない国」は、拙編著『踊ってはいけない国、日本』からの引用だ。筆者が前書きで「ミスリードと取られても仕方がない」「風営法は営業を規制する法律なのだから、“無許可で踊らせてはいけない~”とした方がより正確」と断りつつも、問題を広く知らしめるためにあえて煽り気味のタイトルを採用したことで、未熟な認識を広めてしまった責任も問われるだろう。

「『Let’s Dance』もそういったところがあったと思います。シンプルなメッセージを有名人が発信し、世論を喚起していく――ただ、自分はそのやり方はとても重要だったと思っており、風営法改正に対して議員に取り組んでもらうには、世論の高まりは絶対に必要だったんです。それがあったので、今やっている実務的なことがうまくいっています。中には、『“Let’s Dance”はないほうが良かったんだ』という人もいるんでしょうけど、あの大きな運動のおかげで、クラブと風営法の問題が注目されるようになったのではないでしょうか。そもそもクラブという空間自体、世間からしてみれば非日常的なものかもしれませんので。ただ、『Let’s Dance』のやり方だけでもダメで、世論を喚起した後、その政策をどう実現していくのかだったり、どう利害を調整していくのかだったりは完全に専門的な領域になってきます」

 確かに、クラブ発の風営法改正運動は、この業界が初めて本格的に関わった社会運動であり、試行錯誤の連続だった。齋藤弁護士も普段から個人・企業を問わず、あらゆる法分野を扱う仕事をしているものの、当初は風営法にもロビーイングにも詳しくなかった。しかし、成り行きで運動の渦へと巻き込まれ、そこで多くのことを学んだのだという。

「今回、このようなロビー活動をしたのは初めての経験でした。ただ、ロビー活動は、関係各所からヒアリングを行い、様々な利害を調整し、実現したいビジョンを組み立てて国に対して説得的にアピールし、法設計に落とし込んでいくというものですが、これらは普段の弁護士業務で取り扱っている企業や個人間の契約交渉や契約書作成と極めて似ています。自分としても、日々、弁護士として鍛えられているスキルがそのままロビー活動に活かせることを実感しました。今後はどれだけそういったロビーイストを育てられるかが鍵となっていきます。世論の盛り上がりと政策の実現を結びつけられる専門的なスキルを持った人がいれば、“ツイッターで憤って終わり”みたいな風潮も変わってくるでしょう。そして、そのためにはロビーイストをサポートするお金を集める仕組みを考えなくてはなりません。

 今回のロビー活動には多大な時間を要しましたが、すべて無償で行いました。特定の団体から資金を得ることで偏った法改正になってしまうことを避けるための、あえての選択ですが、ただ、他方でまったく無償で行なうということだと、ロビー活動の広がりは制限されてしまうとも思います。

 日本でも署名やデモ活動は盛んですが、それに加えて、もう少しドネーション(寄付)の文化が発展する必要性と、あるいは、助成金の整備などの必要性も感じます。

 先日、ある外国の例について調べていたのですが、あちらでもライブをすることに対して強い規制がかけられており、ライブハウスの経営が困難になるという事態が起こったそうなんです。そこで、ライブハウスの振興団体が、国の助成金でロビーイストを雇い、法改正に結びつけた事例がありました。日本だとそういった成功例が少ないので、デモや署名に参加しても、『こんなことをやって何になるんだろう?』と考えてしまいがちなんです。つまり、しっかりとしたロビーイストが普及することによって、“社会は変えられる”という実感が持てるようになるのでないでしょうか」
 

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