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初音ミクはどう世界を変えたのか? 柴那典+円堂都司昭+宇野維正が徹底討論

「セカンド・サマー・オブ・ラブは極めて局地的なムーブメントだった」(宇野)

ーー今回の本では初音ミクを発端とするムーブメントを、1960年代末のサマー・オブ・ラブ、1980年代末のセカンド・サマー・オブ・ラブに続く、サード・サマー・ラブ・ラブと位置づけているところに特徴があります。

円堂:サマー・オブ・ラブに着眼して整理するというやり方は、面白かったと思う。いまだに最初のサマー・オブ・ラブの世代は頑張っていて、去年はローリング・ストーンズポール・マッカートニーが来日して、今年はポールが再来日だし。彼らの時代から現在までの音楽史を見渡そうとした時、サマー・オブ・ラブはわかりやすいとっかかりになる。

——宇野さんはセカンド・サマー・オブ・ラブの現役世代ですが。

宇野:現役世代というか、ギリギリ間に合った世代。学生の頃、90年、91年、92年とかに毎年イギリスのクラブやフェスに行ったりして、現場の空気と、それがダメになっていく過程を一応は体感できた。郊外での非合法レイブとか、そういうのは当時ハードルが高すぎて行けなかったけど(笑)。そういう世代だから、柴くんから最初の案の「初音ミクとサード・サマー・オブ・ラブの時代」ってタイトルを聞いた時は、腑に落ちるところと、そうではないところがあった。ファースト・サマー・オブ・ラブはみんななんとなく知ってると思うけど、セカンドのあり方というのが世間的にはいまいち理解されていない気がするんですね。実際、この本で触れられている実証例も少ないと思う。実はセカンドって最初はイビサを経由してのUKドメスティックなもので、極めて局地的なものだったんですよね。レイヴカルチャー自体は、ベルギーとかドイツとかのテクノ系のレーベルとも連動してヨーロッパには広がってはいたけど、それでも当時は、電子音楽先進国といえるような国々にある程度限られていたムーブメントだった。

円堂:1960年代末のサマー・オブ・ラブは、当時のベトナム戦争への反対運動や学生運動などと地続きの現象でした。だから、その世界に浸っていない人でも、社会への反抗といったイメージで外からとらえやすかった。それに比べるとセカンド・サマー・オブ・ラブは、政治性、社会性の希薄な快楽主義で、踊らない人、ムーブメントの外にいる人にとってはいまひとつ、つかみどころがないものだったと思う。

宇野:で、改めて考えると、今のEDMって当時はダンスミュージックの後進国だったスウェーデンとかオランダとかのDJがその中心にいて。それがダンスミュージックの後進国中の後進国であるアメリカの全土にまで広がっていった。つまり、20年以上前にセカンド・サマー・オブ・ラブで蒔かれた種が、当時の子どもたちのDNAに刻まれて、それがこの時代に世界中で爆発しているのがEDM現象だっていう見方もできる。そういう意味で言うと、柴くんが初音ミクをサード・サマー・オブ・ラブと位置付けたとき、恐らく多くの人は「とはいっても日本での話でしょ」って違和感を感じたと思うんだけど、セカンドだって最初は局地的なものだったんだよっていう。それが20年以上経って、より大衆化、風俗化することによって現在の音楽界を覆っているという現状を考えると、もしかしたら20年後には台湾や韓国といった日本の周辺国によってボカロが主流化することだってあり得るかもしれない。そんな想像をかき立てるという点で、あのタイトルは個人的にすごく腑に落ちたんですよね。

ーーセカンド・サマー・オブ・ラブは、円堂さんが指摘したように政治性や社会性、いわばラブ&ピースといった理念性はあまりなくて、さらに言えばセックスやドラッグの快楽を追求するという面が大きかったのでは?

宇野:そう。そこが腑に落ちなかったところ(笑)。僕らが生まれる前のファーストだってそうだっただろうし、セカンドなんて当時の現在進行形のムーブメントでいうならその90%くらいがドラッグカルチャーで、音楽的な部分は10パーセントくらいだった。それゆえに、日本ではあまりリアリティを持って語られなかったんですよね。そう考えると、初音ミクをサードと位置づけたときに、ドラッグに相当するものはなんだろう、という疑問が湧きます。

柴:DOMMUNEの宇川直宏さんの見方を借りると、ファーストはドラッグを意識改革に使っていて、セカンドは快楽のために使っていた。で、ヒッピーカルチャーの中心的人物のひとりで、60年代にドラッグによる意識改革を研究したティモシー・リアリーという心理学者がいるのですが、彼は晩年になるとコンピューターをLSDに見立てて研究しているんですね。つまり、インターネットが意識や感覚を拡張したっていう見方ができる。

宇野:なるほど、そこには意識の改革もあるし、快楽もあると。そう考えると、一応筋は通ってくるね(笑)。

柴:ヒッピーカルチャーが、インターネットの誕生とリンクしていたことを発見したとき、サマー・オブ・ラブを軸とした見立てに確信めいたものを感じましたね。

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