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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.271

ネット社会が生んだ新しい孤独にどう対処する? 家族の崩壊と再生の物語『ディス/コネクト』

disconnect02.jpg弁護士のボイド(ジェイソン・ベイトマン)は、息子のベンが自殺を図ったことに衝撃を受ける。SNS上でのやりとりが原因だったらしい。

 3つめの問題は、未成年者たちが集う違法ポルノサイト。ニュースレポーターのニーナ(アンドレア・ライズブロー)は、ポルノサイトのチャットでイケメン少年のカイル(マックス・シエリオット)と知り合い、顔を出さないことを条件に取材を申し込む。家庭や地域社会に自分の居場所が見出せない少年少女たちが自分たちのコミュニティを築き、生活費を稼ぐ手段としてポルノサイトを運営していることが分かった。ニーナが取材した番組は反響を呼び、CNNで全国放映されることが決まった。カイルと祝杯をあげるニーナだったが、カイルの将来のことが次第に気になり始める。数日後、テレビ局にFBIが現われ、違法サイトに関する情報を提供するよう求めてきた。取材ソースは明かせないと抵抗するニーナだったが、テレビ局のお抱え弁護士ボイド(ジェイソン・ベイトマン)から「コンプライアンスを遵守するべし」と指示される。カイルを売って身の保全を優先するか、カイルとの信頼関係を守るべきか、ニーナは二者択一を迫られる。

 バラバラに起きた事件のようだが、物語を追っていくうちに、3つのトラブルはそれぞれ絡み合っていることが分かってくる。自殺を図り、病院で昏睡状態が続くベンの父親は弁護士のボイドで、いつも仕事に追われ、ベンが学校でも家庭でも孤立していたことに気づかずにいた。ベンを自殺に追い込んでしまった同級生ジェイソンの父親は、ネット専門の探偵マイク(フランク・グリロ)。マイクはネットの危険性を熟知するあまり、ジェイソンに対しパソコンの使用を厳しく制限していた。その反動で、ジェイソンはネット上でいたずら行為に走ってしまう。ネット探偵マイクが調べあげた情報をもとに、デレックは妻とチャットしていた相手・シューマッカー(ミカエル・ニクヴィスト)の自宅へと向かう。弁護士のボイドは息子が病院に運ばれたことに動揺し、レポーターのニーナが起こした揉め事を早急に解決しようと焦る。3つの事件は当事者たちの心のスレ違いが原因で起き、やがて複雑に混線し、取り返しのつかない状態へと陥っていく。ネット社会の縮図が115分のドラマの中で描かれていく。

 一見、どうしようもなくこんがらがってしまった負の連鎖劇に思える本作を、痛みと温かさを感じさせるヒューマンドラマにまとめ上げたのはヘンリー=アレックス・ルビン監督。ドキュメンタリー映画『マーダーボール』(06)がアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた経歴を持つが、劇映画は本作が初めて。『マーダーボール』は車椅子ラグビーで体中にアドレナリンをたぎらせた身障者たちが激しくぶつかり合う格闘ロマン。車椅子ラグビーに生き甲斐を見出す身障者たちの狂乱ぶりが観る者の心を揺さぶる快作だった。身体性200%のスポーツドキュメンタリーから、一転してネット社会を題材にしたシリアスドラマに挑んだ意外性が面白い。今回は劇映画だが、キャストたちの目の届かない場所にカメラを配置して隠し撮りさながらに撮影し、脚本通りのテイクを撮った後にキャスト自身の生の言葉をアドリブでしゃべらせたテイクも撮るなど、ライブ感を活かした演出を盛り込んでいる。フィクションとしてのドラマではなく、観ている我々と地続きの出来事として本作を届けたいという想いが強かったのだろう。

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