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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.272

中国の暗部をえぐる実録犯罪集『罪の手ざわり』“格差社会”が招いた哀しき犯罪者たちの慟哭!

tsuminotezawari03.jpg風俗店でボーイとして働くシャオホイ(ルオ・ランシャン)は、同じ店に勤める同郷のリェンロン(リー・モン)と恋仲になっていくが……。

 下町育ちの北野監督が過激なバイオレンス描写で現代人の空っぽな哀しみを切々と伝えるように、ジャンクー監督もまた経済成長の代わりに多くのものを失った中国人の心の虚ろさをひりひりと描いてみせる。『罪の手ざわり』に登場する4つの犯罪エピソードの中でも、北野作品に通じる哀愁を強く感じさせるのは第二幕の連続強盗魔チョウだろう。ずっと家を留守にしたままで、たまに家に帰ってきても父親らしいことを何もできずにいるチョウは、まだ幼い息子の手を引いて夜の散歩へと出掛ける。旧正月を祝う花火が打ち上げられるのを息子は黙って眺めているだけだ。そんな息子に「花火を上げたいか?」と優しく問い掛けるチョウ。懐の奥に隠し持っていた商売道具の拳銃を取り出し、夜空に向かって銃声を響かせる。チョウの望郷の念とこれまで重ねてきた罪の色と息子の将来を案じる想いが複雑に入り交じった淡く切ない花火だった。多分、チョウの息子は父親の顔は忘れても、この夜に見た花火のことだけは生涯忘れることができないだろう。この花火は、ジャンクー監督が変わり果てていく祖国に向けた弔いの送り火でもある。ジャンクー監督の哀しみと北野作品のバイオレンス性が激しく共鳴する1シーンだ
(文=長野辰次)

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『罪の手ざわり』
監督・脚本/ジャ・ジャンクー 出演/チャオ・タオ、チァン・ウー、ワン・バオチャン、ルオ・ランシャン、チャン・ジャイー、リー・モン、ハン・サンミン、ワン・ホンウェイ 配給/ビターズ・エンド、オフィス北野 5月31日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
(c) 2013 BANDAI VISUAL, BITTERS END, OFFICE KITANO
http://www.bitters.co.jp/tumi

最終更新:2014/05/30 18:30
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