日刊サイゾー トップ > カルチャー > 本・マンガ  > 赤井英和とジム会長の愛憎劇

浪速シリーズの元祖・赤井英和とジム会長の愛憎劇に迫る『浪速のロッキーを<捨てた>男』

61Yls1xgirL.jpg『浪速のロッキーを<捨てた>男』(角川書店)

 いきなり私事で恐縮だが、4月に大阪城ホールで行われた山中慎介と長谷川穂積のボクシングWタイトルマッチを観戦してきた。長谷川は惜しくも敗れてしまったものの、山中が見事6度目の防衛を果たし、両者とも非常にエキサイティングな試合を繰り広げてくれた。

 その会場には、“浪速のジョー”こと辰吉丈一郎が観戦しに来ており、前座試合には期待のホープ“浪速のショー”こと中澤奨も登場し、見事KO勝利。新旧 “浪速シリーズボクサー”の共演も見られるなど、いかにも大阪の会場らしい盛り上がり方も印象的だった。この浪速シリーズ、今では亀田興毅の“浪速の闘拳”、弟・大毅の“浪速の弁慶”など、世代ごとに大阪出身の注目ボクサーに与えられる称号のようになっている。

 前置きが長くなったが、『浪速のロッキーを<捨てた>男』は、浪速シリーズの元祖“浪速のロッキー”こと赤井英和と、彼が所属していた現「グリーンツダボクシングクラブ」の創設者・津田博明の蜜月と破局を綴ったノンフィクションである。

 津田は、自ら裸一貫で創設したジムから井岡弘樹ら3人の世界チャンピオンを生み出し、晩年には当時所属していた亀田兄弟を売り出すなど、稀代のプロモーター、名伯楽として名を馳せた人物である。一方の赤井はご存じの通り、1989年に映画『どついたるねん』に主演し、最近ではTBS系ドラマ『半沢直樹』で下町の町工場のおっちゃんを演じるなど、俳優・タレントとして活動しているが、れっきとした元プロボクサーだ。赤井は、82年に行われた試合で急性硬膜下血腫と脳挫傷の重症を負って一時危篤となり、それが原因でボクサーを引退することになる。しかし、くだんの試合以前には赤井が一方的に引退宣言をし、金銭面で津田と揉めているなどの臆測も周囲で飛び交うなど、2人の間にはかなりのゴタゴタがあったとされているが、その真相はいまだに明かされていない。

 そこで、当時2人の間に何があったかを知ろうと本書を読むと、肩透かしを食らうことになる。本書では「~だろう」「~ではないだろうか」「~なのかもしれない」といった表現が目立ち、津田と赤井の本心には迫っていない。著者である浅沢英氏は津田と赤井の両名にインタビューを試みてはいるが、津田は「しかたなかったんですわ」、赤井は「堪忍してください」と答えるにとどまっていて、当時の2人の心境や確執については語られないままだ。

 とはいえ、津田と赤井の周辺への入念なインタビューや、当時の記録、新聞記者の取材ノートなど綿密な資料から書き起こされた文章は読み応えがあるし、津田が赤井を売り出すためにマッチメークに奔走する姿からは、一人の世界チャンピオンを生み出すために人材と労力と金がいかに必要かがよく分かる。また、津田と赤井のことだけはなく、当時の大阪のボクシングシーンや、ジムのある町の雰囲気、選手たちの息遣いやジム周辺に漂う人いきれまでがはっきりと伝わり、全体を見ればとても内容の濃い一冊であることは間違いない。

12
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

山崎製パンで特大スキャンダル

今週の注目記事・1「『売上1兆円超』『山崎製パ...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真