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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第122回

加藤茶 “無邪気すぎる71歳”天才コント職人が過ごす「老いらくのユートピア」

 真っ暗な中で、いかりやの顔が懐中電灯の明かりに照らされた。「15年やってて、こういうのは初めてだね」と、いかりやが水を向けると、加藤は笑顔で答えた。

「なんだか知らないけど、ワクワクするね」

 この無邪気なコメントこそが、加藤の真骨頂だ。彼は、生放送中の停電という前代未聞のアクシデントを前にして、「面白くなってきたな」と、ひとりほくそ笑んでいる。徹底的に「今を楽しむ」という、加藤の生き方を象徴するせりふだと言えるだろう。

 加藤には、過去に対する後悔はない。未来に対する野望もない。ただ、コントを演じる技術だけは本当に天才的だ。相棒の志村けんも「僕が多分加藤さんはこんなことをするだろうなと思っていると、現場では必ず予想以上のリアクションを返してくる」(『変なおじさん』新潮文庫)と加藤を絶賛している。動き、表情、反応、しゃべり方――そのすべてが笑いという一点に集約されていく天性のコント職人。それが芸人・加藤茶の姿だ。

 加藤は、頭の中を空っぽにして、気ままに舞台を飛び回り、その場その場で笑いをもぎ取っていく。この芸風が、なんとも言えない愛嬌とかわいげを生んでいる。加藤は、その有り余る才能とかわいげによって、前期ドリフの絶対的エースとなり、志村が加わってからは志村と並ぶ二枚看板となった。

 加藤は、進化や進歩といった近代的な観念に縛られない異能の人、ニーチェ風に言えば「超人」だ。世間で何かと話題になる歳の離れた妻との結婚生活も、きっと加藤本人はそれなりに満足しているに違いない。若くて美人の嫁と仲良く楽しく暮らす。誰に何と言われようと、そこには加藤にしか見えないユートピアがきっとあるはずだ。

 70歳を過ぎても子供のように無邪気に遊び回る「加トちゃん」は、今を楽しみ人生を謳歌する異端の自由人だ。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

最終更新:2014/06/17 12:00
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