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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.276

中島哲也監督の“破壊衝動”が全編にほとばしる! 崩壊家族が織り成すポストホームドラマ『渇き。』

kawaki_nakashima03.jpgイジメられっ子のボク(清水尋也)と不良グループに属する遠藤(二階堂ふみ)。姿を見せない加奈子によって、みんな巧みに操られている。

 バイオレンスものを得意とする韓国映画などに比べると、暴力描写が必ずしもハマっているとは言いがたい。刑事役のキャスティングにも一部難がある。ポップでスタイリッシュだと称されてきた中島監督ならではの映像センスが、今回は悪趣味なものに映る。これまでの中島監督作品の完成度の高さに対し、荒削りな印象が強い。だが、そういった荒々しさなくしては描けない世界に中島監督は挑んだのだ。無惨なまでに砕け散った家族像を描くことで、新しいホームドラマの在り方を模索しているようにも感じられる。粉々に砕け散った後に、果たして一体何が残ったのか?

 クリエイターがどれだけ苦労したかに関わらず、すべてをエンターテイメントとして“消費社会”は一瞬のうちに食べ尽くしてしまう。まさに倒しようがない巨人のごとき存在である。CMディレクターとして業界でのキャリアをスタートさせた中島監督は、そんな巨人の恐ろしさを充分に知っている。それでも、中島監督は『告白』以上の猛毒を持って、貪欲な巨人と対峙しようとする。無敵の巨人に、一撃を加えんと立ち向かっていく。

 この世界を支配する巨人に抗うためには、常識に縛られ、スタリッシュさや過去の評価にかまっていることはできない。もっと、もっと強烈な破壊衝動が必要だ。巨人を倒すには、自分自身が巨人化する覚悟がなくてはならない。また、巨人を倒した後の新しいビジョンも求められる。中島監督の手による実写版『進撃の巨人』を観ることは叶わなかったが、中島監督の体内に蓄積されていただろう破壊衝動は『渇き。』の中に充分感じることができる。巨人を引きずり倒せ! 巨人をぶっ潰せ! 巨人をバラバラに解体してしまえ! “巨人殺し”というテーマを、中島監督は今後も背負っていくのではないか。そんな予感を感じさせる。中島監督の渇きはまだまだ癒されていない。
(文=長野辰次)

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『渇き。』
原作/深町秋生『果てしなき渇き』 脚本/中島哲也、門間宣裕、唯野未歩子 監督/中島哲也 出演/役所広司、小松菜奈、妻夫木聡、清水尋也、二階堂ふみ、橋本愛、オダギリジョー、中谷美紀ほか R15 配給/ギャガ 6月27日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
(c)2014「渇き。」製作委員会 
http://kawaki.gaga.ne.jp/

最終更新:2014/06/27 12:30
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